フレンチショックに揺れる欧州にもう一つの火種、イタリアで首相公選制を問う国民投票の可能性が浮上
■ ヨーロッパの金融市場に現れた新たな震源地 メローニ政権は、首相が率いるFdIとマッテオ・サルヴィーニ副首相が率いる同盟(旧北部同盟)という2つの極右政党、中道右派のフォルツァ・イタリアによる「寄り合い所帯」として2022年10月に発足した経緯があり、早期に瓦解するとみられていた。 そうした予想に反して、メローニ政権は安定してイタリアの国政を担い続けている。つまり、現行の選挙制度でも、イタリアの政治が安定することを示しているわけだ。 そうであるなら、政治の安定の対価として「ドゥーチェ」が再来するリスクや、かえって小党分立の傾向が強まるリスクを持つ首相公選制を導入する必要はない。 短期的に懸念される展開は、首相公選制の導入を目的とする国民投票に向けた動きが加速することで、イタリアの政治不安が意識され、投資家がリスク回避の動きを強めるシナリオだ。 2016年の国民投票の際にも、リスク回避の動きを強めた投資家がイタリア債を売却したため、長期金利が急騰した。それと同様の事態に陥る可能性がある。 冒頭で述べたように、現在のヨーロッパの金融市場は、フランス発の政治不安を受けて不安定となっている。 フランスの総選挙の結果は、秋にかけて行われる欧州委員会の次期執行部の選出にも大きな影響を及ぼす。そのため、投資家はヨーロッパの政治動向に対して敏感だ。この流れに、新たにイタリアの国民投票が加わることになる。
■ フランス発の政治不安はイタリアに飛び火するか イタリアのドイツの利回り格差(図表)は、メローニ政権の安定が好感されるかたちで着実に縮小してきたが、フランス発の政治不安を受けて拡大している。 加えて、イタリアで国民投票の実施に向けた動きが加速すれば、イタリアの長期金利は一段と上昇し、同国のみならずヨーロッパ全体の金融不安に転じていく恐れが大きくなる。 【図表 ドイツ10年債との金利差】 メローニ首相に対しては、その安定的な政権運営がEU内で高く評価される一方、主要国首脳会議(G7)で議長を首尾よく務めたことで、EU外からの評価も高めていた。 その矢先に、イタリアで高まってきた政治不安の機運。今後、憲法改正に向けた議論を進める過程で、メローニ首相の真の政治手腕が問われることになる。 いずれにせよ、ヨーロッパの政治不安は長期化の様相を呈しており、当面の間、金融市場の動揺を誘うことになりそうだ。 ※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。 【土田陽介(つちだ・ようすけ)】 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)がある。
土田 陽介