フレンチショックに揺れる欧州にもう一つの火種、イタリアで首相公選制を問う国民投票の可能性が浮上
■ 首相公選制を導入したイスラエルで何が起きたか? かつて中東のイスラエルは首相公選制を導入したものの、それが失敗に終わった経験を有している。 イスラエルは1992年に世界で初めて首相公選制を導入。その下で1996年に実施された初の首相選挙で当選したのが、以降、3度(1996-99、2009-2021、2022-現在)にわたって首相を務めることになる現首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏だった。 首相公選制の導入で政治の安定が期待されたわけだが、同時に行われた議会選では、その意に反してネタニヤフ氏が率いる右派政党が敗北し、小党分立の傾向が強まった。 結局、小党分立の傾向が強まったことで、イスラエルの政治は不安定化した。その理由は、首相公選制の導入で有権者の投票行動が変化したことにある。 通常の間接選挙制度では、有権者は候補者の所属政党を参考に投票を行う。一方で、首相公選制では有権者は首相選挙の際に、候補者の所属政党よりもパーソナリティを参考に投票を行う。 イスラエルの有権者は首相選挙でネタニヤフ氏という個人を選択したが、同時に行われた議会選挙では、ネタニヤフ氏の所属政党ではなく自らの利害に適う小政党を選択した。 その結果、イスラエルでは「ねじれ現象」が強まり、ネタニヤフ氏は苦しい政権運営を余儀なくされたのである。結局、イスラエルの首相公選制は政治の安定をもたらさないまま、2001年に廃止された。 こうしたイスラエルの経験に鑑みれば、イタリアが首相公選制を導入したところで、政治の安定につながるかは分からない。それどころか、むしろ小党分立の傾向が強まる事態になるとも懸念される。 確かに、イタリアで「決められない政治」が常態化していることは大きな問題だが、その改善に首相公選制が資するかどうかは、慎重な議論を要しよう。 イタリアで憲法を改正するためには、上下両院での承認が2回、さらに2度目の採決の際に各院で3分の2以上の賛成を要する。現状、与党勢力は両院で議席の過半を握っているが、3分の2には程遠い。議会の採決による憲法改正は不可能と判断されるため、その是非を国民投票に委ねることになるだろう。 イタリアには、2006年と2016年にも憲法改正の是非を問う国民投票が行われた過去がある。2回とも「決められない政治」を打破するために、首相や下院の権限の強化を目的とする憲法改正だったが、いずれも否決された。 イタリア国民は憲法改正に保守的なため、来年にも実施が予想される国民投票でも憲法改正は否決される可能性が高い。 それに、メローニ政権が安定していることも、憲法改正の否決につながるのではないか。