特許庁が認めなかった「シン・ゴジラ」の立体商標、一転東宝の主張認める判決…知財高裁はどう判断したか?
●特許庁が根拠とした「識別力」とは?
――「識別力」があるかないかということがポイントになるんですね。 はい。特許庁の判断の根拠になったのが、商標法3条1項3号の条文です。 「三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」 この条文は、説明的な商標は登録できないとする条項です。 例えば、自動車という商品の商標で「スピード」や、スパゲッティという商品の商標で「超美味い」のようなものです。これだとその商品の中身をただ説明しているだけと言えますので、あそこのメーカーの商品だとかが区別できない(識別力がない)から、登録できませんよ、そういう条文です。 ですので、親出願から分割した子出願も、この商標法3条1項3号で再度拒絶されました。怪獣のフィギュアという商品の商標(立体商標ですが)で、「怪獣の形態」にしただけじゃないか(拒絶理由の言葉を借りると「その商品の形状を表示したものと認識するにとどまる」というものです)、ということでした。
●商標法第3条2項とは何か?
――今回の判決は、「商標法第3条2項」を審決取り消しの根拠にしています。これはどういうものなのでしょうか。 まずは、商標法第3条2項の条文です。 「2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる」 さきの例を用います。自動車という商品の商標として「スピード」を付したメーカーが、粘り強く営業をかけ、テレビCMもうち、自動車雑誌やインフルエンサーにも働きかけ、もはや自動車の業界で、「スピード」と言えば、あそこのメーカーのあの車種だ、大ヒットして僕も私も「スピード」が欲しい、あの車が欲しいのだ!となったらどうでしょうか? こうなったら、他のメーカーの商品(自動車)と識別できるようになったと言えるのではないでしょうか。そのような場合、「よくやりましたね登録OKです」としてもいいですよね。それが上の3条2項です。 実は、東宝はすでに、特許庁の審査段階からこの3条2項の主張はしていました。 しかしながら、特許庁の方は、「使用商品の販売数、売上等は確認できません。また、使用期間が一時的であり、現在使用されている事実も確認できません。加えて、アンケートの結果等の需要者の本願商標の認識の程度が客観的に分かる資料の提出もありません」、「仮に映画の分野において当該形状が「シン・ゴジラ(の第4形態)」であると認識されているとしても、本願指定商品の分野において認識されているということはできません」、「本願指定商品の分野における、本願立体形状の著名性は確認できません」とケンモホロロでした。 さらに、東宝は、訴訟の前に特許庁に対して審判の請求もしています。しかしながら、やはりその審判でも東宝の主張は受け入れられませんでした。不成立審決ということでした。