イーロン・マスク氏の「真の才能」を見抜いている…トランプ新大統領が「ビジネスの鬼才」を起用する本当の目的
アメリカのドナルド・トランプ次期大統領は、新組織「政府効率化省(DOGE)」のトップに実業家のイーロン・マスク氏を起用すると発表した。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「マスク氏は2022年にツイッターを買収した際は、コストカットだけでなく、テクノロジーを活用することで生産性を向上させてきた。政府でも同様の改革を行うことが予想できる」という――。 【写真】テスラの「サイバートラック」 ■世界から注目を集める「トランプ人事」の目玉 11月5日から開票が始まったアメリカ大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ氏の圧勝に終わった。現バイデン大統領の後継者として民主党の候補者となったカマラ・ハリス氏は、結果的にスイング・ステート(激戦州)と言われた7州すべてで、トランプ氏の後塵を拝した。 人々の関心は今や、2025年1月20日に就任するトランプ次期大統領の政権構想と、閣僚人事に移っている。なかでも「トランプ人事」の目玉といえるほど注目されているのが、テスラやスペースXのCEO(最高経営責任者)を務めるイーロン・マスク氏の政権入りだろう。 大統領選挙の最中、トランプ氏の暗殺未遂事件が起こった7月13日に、イーロン・マスク氏はトランプ支持を正式に表明した。以後、10月に入ってからはトランプ氏の集会に参加して応援演説したり、「激戦のペンシルベニア州で毎日1人の有権者に100万ドルを贈る」と表明したりと、トランプ氏勝利に大きく貢献した。選挙戦中、マスク氏はトランプ陣営に少なくとも1億1900万ドル(183億円)の献金を行ったとされる。 トランプ氏は次期政権で「政府効率化省(DOGE=Department Of Government Efficiency)」という諮問機関を新設すると発表した。イーロン・マスク氏とヴィヴェック・ラマスワミ氏(製薬スタートアップ企業ロイバント・サイエンシズの創業者)をトップに据え、連邦政府全体の監査役を担う。 11月20日、マスク氏とラマスワミ氏はウォール・ストリート・ジャーナルに連名で寄稿し、年間5000億ドル(約78兆円)以上の政府支出を削減できると表明した。具体的には国際機関への助成15億ドルなどが削減対象になるという。また、連邦政府の「大規模な人員削減」に踏み切ることは可能とも明らかにした。 ■ツイッター買収後に行った「大胆な改革」 マスク氏といえば、2022年にツイッターを買収した後、取締役の全員を解任して従業員の約8割を解雇するなど、大胆なリストラ策による大幅なコスト削減が知られている。今度は連邦政府でも、同じことができる立場になるようだ。 マスク氏の買収によってツイッターはXと名称を変更し、非上場化に踏み切った。そしてマスク氏は人員整理による組織改革を行い、広告ビジネスからの脱却を目指して有料の公式承認バッジを導入するなど、数々の改革を短期間で実施した。マスク氏は大胆にリストラをする一方で、必ず組織の生産性を高めていく。 筆者はマスク氏を「宇宙レベルの壮大さで考え、物理学的ミクロのレベルで突き詰める」と評してきたが、元ツイッタージャパン社長の笹本裕氏の著書『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(文藝春秋)には「ビジョンは壮大なのに、マネジメントはミクロ」という見出しがある。同書にはマスク氏を間近で見てきた笹本氏によって、社員全員に週報(後に月報)を求め、そのなかで自主目標を設定させて成果を報告させるという、マスク氏のマイクロマネジメントが描かれている。