イーロン・マスク氏の「真の才能」を見抜いている…トランプ新大統領が「ビジネスの鬼才」を起用する本当の目的
■生産性向上のカギは「イーロンウェイ」 マスク氏は週報や月報を通じて、自身のビジョン「イーロンウェイ」を浸透させたいという意図があったと笹本氏は書いているが、一方で「自分で考えて行動しろ」ともよく言っていたという。「彼は大きなビジョンが明確にある一方で、ダイバーシティというか、多種多様な考えを吸い上げていきたいという姿勢もある」(同書より)。 EV(電気自動車)を世界で初めて量産化・収益化したのはテスラだ。つまり効率化・生産性向上という面ではマスク氏は大きな実績を残している。また〈「900万円の高級トラック」もイーロン・マスクなら売れる…EV逆風の中、テスラが「一人勝ち」できた理由〉の記事でも言及したように、2023年末に出荷が始まったばかりの「サイバートラック」は、10月の四半期決算ですでに収益化を達成している。 単なるコストカットではなく、組織改革とAIなどのテクノロジーを用いたDXで必ず効率性・生産性を向上させるのが「イーロンウェイ」だ。 政府に対しても、マスク氏は同じような改革を行うだろう。したがってトランプ氏の目論見通りにマスク氏率いる「政府効率化省」が機能すれば、アメリカは国として競争力を高めるのではないか。 マスク氏がトランプ新政権に影響力を持てば、自動車産業や宇宙産業などにおける規制緩和を大きく働きかけることは容易に予想される。それに関連して、政府のさまざまな調達へのアクセス拡大も予想されるところだ。 ■中国、ロシア、ウクライナの首脳と「強いコネクション」 そしてマスク氏が経営するスペースXは宇宙産業だが、同時に防衛産業にも転用できる技術を持っている。同社が設計、所有、運営している衛星インターネット回線「スターリンク」は、すでにマスク氏によってウクライナに提供され、ロシアとの情報戦において重要な役割を担っている。こうした観点から、軍事・防衛産業という側面からもマスク氏の役割が強化されると想定できる。 外交・地政学においてもマスク氏の影響力は拡大するだろう。テスラは2019年から上海で超大量生産が可能な工場「ギガファクトリー」を稼働させている。このテスラ初の海外工場を誘致したのは、当時は上海市共産党委員会書記だった李強首相だ。また2023年11月にはアメリカを訪れた中国の習近平国家主席との夕食会に、マスク氏はアップルのティム・クックCEOらとともに参加している。 今年10月には、マスク氏がロシアのプーチン大統領と2022年終盤から定期的に対話していたとウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。 そして11月6日に行われたトランプ氏とゼレンスキー氏との電話協議にも、マスク氏が参加したことが明らかになっている。「マスク氏がトランプ氏とゼレンスキー氏の電話会談に参加したのは初めてのように見えたが、ゼレンスキー氏の元報道官ユリア・メンデル氏によると、彼は戦争中に少なくとも2回、ウクライナの指導者と話しているという」とニューヨーク・タイムズは報じた。こうした現在の世界情勢における重要国の首脳と、強いコンタクトを持つ人物は政治家でもなかなかいない。