欧米・オーストラリア人の富裕層に刺さる「地方コンテンツの作り方」
円安とコロナ禍明けを受け、拡大を続けるインバウンド市場。今後の課題とされるのが「富裕層の取り込み」だ。日本文化への関心が高いと言われる欧米・オーストラリアの富裕層をひきつける、コンテンツの作り方とは。前回に引き続き、インバウンドコンサルティングや旅行事業を手掛けるBOJ社CEOの野口貴裕から話を聞いた。
「唯一無二」が地方の魅力を引き出す
──インバウンド客の地方誘致は、大きな課題でもあります。どのようなコンテンツが欧米・オーストラリアからの富裕層旅行者を呼び寄せるのでしょうか? 野口 その地でしか体験できないコンテンツです。 彼らは、「日本」ではなく「地方」を体験しに来ています。前回、東京・京都といった定番化した観光地に加え、地方にまで足を延ばす外国人富裕層が増えたというお話をしましたが、わざわざ地方に来る方は、それなりの期待感を求めてやって来ているわけです。 うどん作りやそば作り、着物体験などは外国人にとっては人気の体験コンテンツとして定番化していますが、日本中どこでも体験可能です。地方に足を運ぶ富裕層旅行者は、東京・京都では味わえない、その地域特有の「何か」を求めていらっしゃっています。そのことに、もっと注意を向けなければなりません。 日本の地方には、実に多彩な地域資源があります。たとえば、青森県のねぷた祭り、瀬戸内海と調和するようにデザインされた直島の草間彌生のかぼちゃのオブジェなど、その地域でしか体験できない食べ物や景色、伝統や文化が存在しています。こうした希少性をいかした旅行プランや体験コンテンツを創出することが大切です。 その地に住む人にとっては「なんてことのない」ような光景でも、外国人には魅力的に映る場合があります。 「外国人は着物が好きだろう」「そば作りが人気らしい」などというありがちなイメージからコンテンツを作るのではなく、その土地特有のものをいかしたコンテンツこそ、地方誘客のカギになるのではないかと思います。 ──しかしながら、「外国人富裕層の目線」を地方事業者が持つのは難しいように思います。どうすれば彼らにとって魅力的なコンテンツを創出できますか? 野口 無理に富裕層をターゲットとする必要はありません。 というのも、富裕層を受け入れる上で欠かせないのが高級旅館や高級ホテル、希少性があり経済的価値もある地域資源の存在ですが、そういったものはどこにでも存在するわけではありません。背伸びをして富裕層向けコンテンツを無理やり作ってしまうと、その土地に息づくそれぞれの「良さ」を潰してしまう可能性もあります。 インバウンド市場における富裕層の消費額は約1割に過ぎません。地方によっては、一般層を狙ったほうがいい場合もあるように思います。最も重要なのは、「その土地にしかない魅力を、そこに住む人たちがきちんと認識する」過程です。 外国人目線については、地域の教育機関にいるELTやALTをはじめとする外国人講師や留学生を活用すればいいのではないかと思います。探してみれば、必ず外国人は近くにいます。海外から見て、その町や村にはどんな魅力があるのか、どんなコンテンツがあればもっと多くの人に魅力が伝わるのか、ぜひ、彼らから意見を聞いてみてください。 また、周辺地域にある外国人観光客に人気の観光地を観察するのもお勧めです。そこで見つけた「良さ」をベンチマークにしながら、自分たちの地域にある魅力を掘り起こしてみてください。 外国人の訪日ニーズはどんどん多様化しています。富裕層にとらわれることなく、試行錯誤しながらその地域に合ったターゲティングをしていくことが大切です。 ──ターゲティングに際して、どのようなポイントが重要になりますか? 野口 「無理をしない」ことです。一時的に何かを作ったり、リソースを割いたりしても、成功するとは限りません。その地域の状況に合った、持続可能性のある設計が大切だと思います。