直4・V6・V8……3気筒以外はほぼ偶数! クルマのエンジン気筒数の謎
奇数のシリンダーがあまりない理由
最近のクルマで使われるエンジンを見ると、排気量に対するシリンダー数の減少化、それに伴う軽量コンパクト化がひとつの特徴となっている。いうまでもなく、自動車各部の軽量コンパクト化は、運動性能、動力性能、環境性能すべての面においてプラスに作用するからだ。とくにローエミッション/ゼロエミッション、カーボンニュートラル/ゼロカーボンが社会的に重要視される現代において、自動車のエンジンがもつ意味は、かつてと大きく変わってきている。 【画像】気筒数の違いによるエンジン特性の違い さて、シリンダー数の減少だが、これまで市販車(乗用車)で使われてきたシリンダー数を少ない順に並べていくと、単気筒、2気筒、3気筒、4気筒、5気筒、6気筒、8気筒、10気筒、12気筒、16気筒あたりとなり、かつての12気筒車は8気筒を搭載、8気筒は6気筒、6気筒は4気筒、4気筒は3気筒と、シリンダー数は減る傾向にあることに気付かされる。 これらのうち、車両に搭載する上でサイズ的な制約がいちばん生じやすいシリンダーレイアウトが、縦に長く配置される直列方式だ。これまでの例を振り返ると、量産車で限界と思われる直列配置のシリンダー数は6気筒となる。ちなみに、直列6気筒は1次、2次の慣性力、完成偶力のバランスがとれ、振動がほとんどなくスムースな回り方をすることから、究極の振動バランスをもつと定評がある。 8気筒以上、10気筒、12気筒はV型のシリンダーレイアウトとなるが、V8は直列4気筒を2基、V10は直列5気筒を2基、V12は直列6気筒を2基結合したエンジンと考えてよく、回転バランスに優れた直列6気筒を2基つないだV12が、きわめてスムースな回り方になることから、高級車で好んで使われてきた歴史がある。
奇数は回転バランス面で不利になる
ところで、これまで採用されてきたシリンダー数で、奇数シリンダーがほとんどないことにお気付きだろうか。単気筒は、かつて小排気量、ふたり乗りのコミューター的な小型車両で使われた程度で、現代では自動車用エンジンとして考慮されていない。 直列3気筒は、かつて軽自動車で2サイクル3気筒が使われたが、近年は1500~1600ccクラスまでを受けもつエンジンとして、4サイクル3気筒が直列4気筒に取って代わる状況にある。当然ながら、直列4気筒より軽量でコンパクトな仕上がりとなる。 回転バランス面では、慣性力は1次、2次ともバランスするが、 慣性偶力が発生するため、キャンセル用にバランスシャフトやカウンターウエイトが必要となる。直列4気筒が2次慣性力の対策が必要なことを考えれば、構造次第で3気筒の実用性は十分高いといえる。 直列5気筒は、1次、2次慣性力ともバランスするが、大きな慣性偶力が発生するため、これのキャンセルに1次偶力バランスシャフトを用いる例もあった。また、偶力が発生する傾向は、直列5気筒を2基つないだV10(理論的にはバンク角72度、生産車ではバンク角90度も存在)も同じで、生産車では慣性偶力対策がネックとなり、ほとんど実用化されることはなかった。 一方、量産車のエンジンとして7気筒、9気筒が存在しないのは、まずサイズと重量の問題があるからだ。7気筒、9気筒のV型レイアウトは構造上あり得ない。左右バンクでシリンダー数が異なるため、回転バランスがきわめて悪くなる。直列レイアウトは、クランクシャフトが長く伸びることでエンジン全長が延び、7気筒は適正なクランク軸位相がとれない。また、9気筒にいたってはエンジン全長が長大になると同時に、クランクシャフト、シリンダーブロックの重量が増え、車両への搭載が極めて困難な状況となる。自動車用として実用例がないのはこのためだ。 余談だが、航空機用の星型エンジンは、奇数シリンダー数が定石で、逆に偶数シリンダーの例はない。点火タイミングと回転バランスによるものだ。 自動車用(乗用車クラス)の直列レイアウトとして最多のシリンダー数は8気筒だった。メルセデス・ベンツ300SLR(W196S)が搭載したM196型3リッターエンジンで直列4気筒を縦に2基つなぐ構造だった。 なお、このクルマは、市販されたガルウイングドアをもつ300SL(W198)とはまったく別物の純レーシングカーである。
大内明彦