玉乗りのようだが…倒れない 車輪がボール、次世代型乗り物「オムニライド」はなぜ生まれた?
興味本位からスタート
2012年に「オムニライド」の1号機が完成。研究室では、形状、構造の強度、出力や推進力などさまざまな改良を重ねてきました。 「当初は、浮遊感覚で全方向に進める『玉乗りパーソナルモビリティ』は面白いだろうと興味本位からスタートしましたが、オムニライドの特性を生かすにはどのような使い方が適しているのかがだんだん見えてきました」 電動車椅子としての活用もその一つです。オムニライドなら高齢者や体の不自由な方でも、簡単な操作で行きたい場所にすんなり移動できます。 「試作機を作って地元の病院のスタッフに試乗してもらったところ、好評でした。バッテリーやコストなど実用化に向けてクリアしなければならない課題はありますが、老老介護など介護者の支援において有効なデバイスになっていくと思います」 星野教授は今後、パーソナルモビリティだけでなく、地域の環境に合わせて農作業を自動化する設備の開発など、広く「自動化」に貢献する研究にも取り組んでいきたいと考えています。
「自ら提案する力」を
星野教授が専門にしているのは、ロボット工学と制御工学です。 「ロボットは簡単に言うと、機械をモーター仕掛けで動かすシステムのことです。人間の形に近いものや、人間の腕のような動きをするマニピュレーターだけでなく、モーター仕掛けで動くものは何でもロボットと言えます。パーソナルモビリティもロボットの一例という位置づけで研究しています」 ロボットを思い通りに動かすことを「制御」と言います。玉乗り型パーソナルモビリティの「オムニライド」は何もしなければ倒れてしまいますが、数学や物理を利用して制御することで、自立して乗れるようになり、操縦が可能になります。 実はロボット工学は、「すべての学問がロボット工学に通じている」と言ってもいいほど、幅広い知識を求められる学問領域です。何を作るかという構想から始まって図面を書き、部品を買ってきて組み立て、配線する。回路プログラムのもとになる原理を数学や物理を使って表す作業も必要です。これらの工程のどれか一つが欠けても機械は動かないため、これまでに習ってきた知識や技術を総動員して取り組む必要があります。 「ゼロから作っていくのは、私の研究室の大きな特徴です。とはいえ、『機械が好きでこの研究室に入ったけれど数式や回路は苦手』という学生も多く、作業で苦労することもたくさんあります。でも、だからこそすべてが経験になるし、ようやく機械が動き出したときはすごくうれしく、何ものにも代えがたい達成感を味わうことができます」 星野教授が研究活動の中で、学生たちに身につけてほしいと考えているのは、「自ら提案する力」です。 「今はネットで簡単に調べられる時代ですが、単に調べて答えるのではなく、『こうしたらいいんじゃないか』『自分はこういうことをやってみたい』などと、どんどん提案する能力や勇気を持ってほしいですね」