空き家問題「3びきのこぶた」で身近に 地域おこし協力隊員が絵本
田舎の空き家をどうしたものか――。仏壇の始末や不動産売買の基礎をまとめたフリーペーパーを次々発行し、家主の悩みに答える地域おこし協力隊員がいる。空き家バンクへの登録を促そうと、3匹の子豚が登場する絵本も制作し、成果を上げている。 【写真】大野市の空き家対策に取り組む三浦紋人さん=2024年9月25日、福井県大野市日吉町の関西大学横町スタジオ、鎌内勇樹撮影 福井県大野市中心部にある関西大学「横町スタジオ」を拠点にする三浦紋人(もんど)さん(30)。ふとん店だった空き家を活用した空間だ。 福岡県出身の三浦さんは関大環境都市工学部建築学科を卒業し、同大学院修士課程を修了。大学時代から横町スタジオに通い、地域のにぎわいづくりに関わってきた。 大学4年から2年間は南米を旅し、大学院修了後はブラジルの設計事務所に就職するつもりだったが、コロナ禍で渡航できず断念。2020年8月から、市が空き家対策をテーマに募集していた地域おこし協力隊員になった。 21年からは、市と関大が連携して研究と事業の両輪でまちづくりを支援する地域団体「横町編集部」の代表や、関大の客員研究員も兼任。市と協働して空き家対策に取り組んできた。 三浦さんは、「空き家や古民家を買うための本や雑誌はあるが、空き家を持っている人がどうすればいいかを教えてくれる情報源がない」と、21年3月から空き家だより「三浦問答」を発行。Q&A方式で不動産売買や相続などの基礎をわかりやすく解説してきた。市役所や公民館など15カ所に置き、28号を数える。 市の担当者と地域を回ると、立派な仏壇がある家が多く、「どうしたらいいかわからない」という相談が多かった。寺の住職に取材し、奥越地域に多い浄土真宗の場合は「お精抜き」という法要をすれば処分できることも三浦問答に掲載した。 市が21年度に市内全域を調査し、22年2月に公表した空き家対策計画によると、市内の空き家は約800軒。このまま人口減少が続けば45年には約4千軒に増える見込みだ。 ■作った絵本は「3びきのこぶたと、3けんのあきや」 空き家問題を身近に感じてもらうため、絵本「3びきのこぶたと、3けんのあきや」も制作。3匹の子豚がそれぞれ空き家を相続し、自分で活用したり、他人に貸したりして苦闘する物語にした。制作資金はクラウドファンディングで集め、絵本は市のふるさと納税の返礼品になっている。 成果は着実に出ている。市の空き家バンクの新規登録件数は20年に7件だったが、23年は4倍近い26件に急増。今年も7月までに22件が追加された。購入につながった成約件数も20年の5件から23年は18件に増えた。 市も対策に力を入れ、市街地の空き家に移住した人に購入費の3分の1を補助(市街地は上限60万円、改修費も別途60万円、郊外は同30万円で改修費30万円)している。購入者は子育て世代やシニア世代の夫婦が多いという。三浦さんは「購入者の事情は様々で複雑で、スパッと分析できないが、建材や人件費の高騰で、家の新築費用が以前の1.5倍以上になり、比較的新しく手頃な空き家のニーズが高まっている」とみる。 ただ、課題も多い。国は空き家対策の規制緩和で建築基準法を改正し、200平方メートル以下の空き家をカフェなどに用途変更する場合に建築確認申請を不要にしたが、奥越など北陸はそれ以上の大きな空き家が多い。また、所有者の多くは「売って手放してしまいたい」という一方、移住を希望する側は「まずは借りて、地域になじんだら購入したい」という人が多いという。 旧和泉村地区など山間部に多い古民家も、不動産業者は仲介したがらないという。そこで、和泉自治会と協力し、11月3日に地区の空き家を無料バスで巡る「マッチングツアー」を開く。 地域おこし協力隊員の任期は今年度で終わるが、引き続き大野市でまちづくりに関わっていくという。三浦さんは「大野は東京へも大阪へも3時間半ほどで、ぎりぎり日帰りで行ける。ここに腰を据えて魅力を伝え、広めていきたい」と話す。(鎌内勇樹)
朝日新聞社