和田秀樹 メンタルの病には<薬>が効くものと治らないものがある。でも薬で治らない症状に、日本の精神医療は完全にお手上げで…
◆薬では治らない病気「トラウマ」「PTSD」 薬で治らない重症の精神疾患としては、トラウマ性の精神障害やPTSDがあります。 トラウマというのは、戦争や拷問、大規模な自然災害・事故、児童虐待、家庭内暴力レイプなど、命に危険を感じるような衝撃的な出来事を体験または目撃したときに生じる心の傷のことです。 その心の傷がいつまでも癒えずに、衝撃的な出来事を繰り返し思い出したり(その光景が浮かんでくる場合は、フラッシュバックといいます)、それに関連する記憶を失ったり、 感情の麻痺、入眠困難、著しい不安や集中力の低下、あるいはちょっとしたことに過度に驚くといった症状が1カ月以上続き、日常生活に深刻な支障をきたしている状態をPTSDと呼びます。 PTSDが注目されるようになったのは、ベトナム戦争の頃からです。 レイプの被害者とベトナム戦争の帰還兵に見られる症状がそっくりだということで、1970年頃からPTSDの概念が生まれ、1980年にDSMというアメリカ精神医学会の診断基準で、初めてPTSDという病名が採用されました。 私は1991年にアメリカへ留学したとき、実質的に初めてPTSDのことを知りました。
◆日本で「PTSD」とい病名が知られるようになったのは… 1994年に帰国した頃も、日本では精神科医の間でもほとんど知られていませんでしたが、その翌年の1995年1月に阪神・淡路大震災が起こり、同年3月に地下鉄サリン事件が起こって、そこからトラウマ、PTSDという病名が国内でも広く知られるようになりました。 以後、大規模な自然災害や事件などが起こるたびにPTSDが心配され、日本で調査をしてみると、被災者の10%程度がPTSDを発症したとされています。 通常、自然災害でPTSDを発症するのは被災者の2%程度とされており、日本人はPTSDを起こしやすいと考えられています。 だというのに、日本ではトラウマやPTSDをきちんと診断・診療できる医者が少ないうえ、無知なマスコミがその言葉を広めて、一般の人たちの間で拡大解釈されています。 本来、PTSDの治療は、精神療法(EMDRと呼ばれる特殊な心理療法や認知行動療法など)を中心に行われます。 必要に応じて投薬も行いますが、基本的には長い期間をかけて根気強く精神療法を続けることが求められます。 ※本稿は『「精神医療」崩壊 メンタルの不調が心療内科・精神科で良くならない理由』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
和田秀樹
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