マツダ「SKYACTIV-X」 ドイツ試乗で分かった“夢のエンジン”の潜在能力
ディーゼルエンジン並のトルクと低燃費、ガソリンエンジン並の高回転の伸びを実現し、かつどんな運転状況でも燃費に差が現れにくい――。これが先月マツダの発表した新エンジン「SKYACTIV-X」の理論上の性能でした。このガソリンとディーゼルを“いいとこ取り”した夢のようなエンジンの開発は、今どこまで進んでいるのか。モータージャーナリストの池田直渡氏が、ドイツでプロトタイプのSKYACTIV-Xを積んだ試作車に試乗しました。そこで見た新技術とその検証を池田氏がレポートします。 【図】“究極のエンジン”誕生か マツダの「SKYACTIV X」はどうスゴい?
テストで回っても本当に性能出せるのか?
マツダが8月8日に発表した新技術エンジン「SKYACTIV-X」にドイツで緊急試乗した。発表時のマツダの言い分では、環境性能に優れ、動力性能に優れ、しかもドライバビリティも人馬一体を実現する夢のエンジンだと言うことだった。 その理論的説明の詳細は過去の記事を参照していただきたい。理論的に複雑なので、それらをこの記事に全部を盛り込むと大変な長さになる。誠に申し訳ないが、前編をお読みいただいた前提で説明させていただきたい。 2019年の発売まで1年半を残すこのエンジンを、このタイミングでテストさせるマツダの狙いは「所詮プロトタイプ。テストベンチ上で回ったとしても本当に出て来るかどうか?」と懐疑的な人たちに対してその本気度と、ポテンシャルを証明してみせることだろう。その目論見は成功した。ドイツで試乗した筆者としてはあのエンジンが今すぐ市販されたとしてもおかしいとは思わない。それほどの完成度だった。 マツダによるプロトタイプユニットの暫定的なスペックは以下の通りである。 ・圧縮比:16.0:1 ・排気量:1997cc ・最大トルク:230Nm(目標値) ・最大出力:140kW/ 190PS(目標値) ・燃料:ガソリン95RON
「7つの因子」に集中して改善図る
SKYACTIV-Xとは何かといえば、マツダが2005年ごろに作成したというこのロードマップを見てもらうと分かりやすい。エンジンの膨大な制御因子を整理し、それをたったの7つに絞り込んだ。まずこれが驚異的である。ここにはエリヤフ・ゴールドラッド博士が提唱した「制約理論」の影響が見て取れる。その結果、7つの因子を改善すれば「理想」が追求できるとマツダは主張しており、実際にSKYACTIV世代のエンジンは、このロードマップに沿って継続的にリリースされ続けている。 図の左側がガソリンエンジン、右側がディーゼル。SKYACTIV-Xはガソリン燃料なので、左側だ。一番左に「熱効率の制御因子」があり、その隣に旧世代エンジンの到達度が色分けされている。理想に近づいたものは緑に、まだまだ遠いものは赤く表示されている。これを見ると、「圧縮比」「比熱比」「壁面熱伝達」「吸排気行程圧力差」の4つが問題児であったことが分かる。その改善に挑んだSKYACTIV-Gでも、改善が進んだものの、ほとんどの項目が黄緑で、比熱比は赤のままだ。進化途上にあったこれらを大幅に改善するのがSKYACTIV-Xの目標だ。