「フリーアドレスだから会話が弾む」は間違い。上司と部下のコミュニケーションが活発化する最もシンプルな方法とは?
フリーアドレスにしてもコミュニケーション量は増えない
それは、フリーアドレスにしたからといって、一概にコミュニケーション量が増えるとは言い切れないということです。 対象となるオフィスにカメラを設置して、録画した映像から発話内容や回数、会話時の距離や人数、会話の発生した場所や状況といったデータを取得。このデータをフリーアドレスにする前後で比較するという方法で、分析を実施しました。 分析の結果、必ずしも、フリーアドレス制にしたことでコミュニケーション量が増えるとは言えない、ということが明らかになりました。 同時にわかったのが、「上司の目線の高さ」と「部下からのコミュニケーション発生数」に相関があること。 どういうことかと言うと、上司がローソファに座っている時には、部下から話しかけられる回数が減り、上司が立っていたり、ハイスツールに座ったりしている時には、部下からのコミュニケーションが増えたのです。 人には、それ以上他人に近づかれると不快に感じてしまう範囲、「パーソナルスペース」があります。計測実験により、このパーソナルスペースが、目線の高さによって変化することがわかりました。 通常、仕事や地域などの社会的な関係にある相手とのパーソナルスペースは、1.2~1.3mだと言われています。 しかし、上司がハイスツールに腰かけている状態だと、部下は90cmという距離まで近づいて、話しかけてきたのです。 さらに、上司がスタンディングデスクで仕事をしていた時には、部下はすぐ隣にやってきて、45cmという至近距離で上司に業務の相談を始めました。 この計測実験は、複数の企業で実施したのですが、どこも同じような結果となっています。また、飲食店やホテルのロビーなどで空いている席に腰かける際、隣席からどの程度距離を空けるかを椅子の高さごとに計測した実験でも、同様の結果が得られています。
目線の高さでコミュニケーションをコントロール
これらのことから、パーソナルスペースの範囲は、目線の高さによって、広がったり狭まったりするということがおわかりいただけるかと思います。 これを利用して、作業に集中するために話しかけてほしくない時は低い席で仕事をして、部下とコミュニケーションを積極的に取りたい時には立ちながら仕事をするなど、目線の高さを変えることで、コミュニケーションの量や頻度をコントロールできるようになります。 円滑なコミュニケーションは、円滑な業務遂行を促すだけでなく、問題の早期発見や、チームのモチベーション維持、職場の雰囲気作りにも重要な役割を果たしています。 目線の高さとコミュニケーションの関係を知っておくことで、「話しかけないで」「話しかけて」と言葉や態度で表さなくても、ごく自然にコミュニケーションのしやすさを調節できるようになります。これは、あらゆるオフィスで応用しやすいテクニックです。 図/書籍『中間管理職無理ゲー完全攻略法』より 写真/shutterstock
---------- 中谷一郎(なかたに いちろう) 大学卒業後、ベンチャー・リンク社を経て2010年にトリノ・ガーデンを設立。サービス業を中心に、建設、小売、メーカーなど幅広い業界における大企業の収益・生産性改善を、「オペレーション分析」を通じて実現してきた。その手法は一般的な戦略コンサルタントのそれと異なり、徹底的に現場の様子を「可視化し計測し記録する」こと。近著に『オペレーション科学』(柴田書店)がある。 ----------
中谷一郎