寒冷地のディーゼルは始動が大変……だから必要! ガソリンエンジンにはない「グロープラグ」の役割とは
ディーゼルエンジンの使い勝手を向上
ディーゼルエンジンは、空気だけを圧縮して500~600℃にまで高温になった状態のなかに軽油を噴射して自己着火させる。だからガソリンエンジンのように燃料噴射とスパークプラグの点火タイミングで燃焼をコントロールするのではなく、燃料噴射だけで燃焼をコントロールしている。 【画像】ガソリンなのに自己着火する「夢の技術」を実現したマツダのSKY ACTIV-X そのため、最近のディーゼルエンジンはじつにきめ細かく燃料噴射を制御しているのだ。ピストンが上死点(空気が最大限に圧縮された状態)にある付近で燃料を一気に噴射すれば、高い駆動力(トルク)を得ることができるが、実際には燃えカスである黒煙がたくさん発生してしまう。それではDPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)をどんどん詰まらせてしまうし、燃費も悪化してしまうので、1回の燃焼時にも3回から5回ぐらい燃料をわけて噴射しているのだ。 ところで、冷間時にはディーゼルエンジンでは吸入空気を圧縮しても気温が低いため、燃焼室が冷たいので圧縮による熱が奪われて始動性が低下してしまう。何度もクランキングさせるとセルモーターは傷むし、バッテリーも弱って始動不能になる。寒冷地ではなおさらだ。 そこで、燃焼室内に火種を作り、低温時にはその火種から着火することで燃焼させる仕組みが組み込まれている。これがグロープラグと呼ばれるものだ。かつて(昭和期)の旧式のディーゼルエンジンは、始動時にレバーを引き、このグロープラグを十分に加熱してからでなければ始動できなかった。 その後、技術の進化によってイグニッションをONにするだけで自動的にグロープラグが加熱されるようになり、すぐにエンジンが始動可能となってディーゼルエンジンの使い勝手はかなり向上した。 現在はほんの一瞬、グローランプが点灯するくらい、短時間に予熱が終了する。普通にイグニッションをオンにしてセルモーターを回しても、なんの問題もなくエンジンは始動する。 ちなみにグロープラグを常時利用するタイプのエンジンもある。それはRCカー用のエンジンだ。複雑な点火装置を搭載するのが難しいRCカーの世界では、引火点の高い燃料を使うことで、混合気を圧縮したときにグロープラグで自然着火するよう圧縮比などが調整されているのだ。 最近はインテークヒーターで吸入する空気を温めることで冷間時の始動性を確保するディーゼルエンジンも登場している。これはグロープラグのような予熱時間は必要ないので、さらに自然に始動することができる。どちらも始動時に電力をかなり消費するが、それでもセルモーターを長く回すよりはセルモーターの負担軽減などさまざまな意味で効率的だ。 また、吸入空気ではなく、寒冷地などでは燃料を温めるプレヒーターを搭載しているディーゼルもある。軽油はガソリンよりも凍りやすい(寒冷地では冬季、氷点の低い軽油を販売している)ので、こうした装備が必要なのである。 グロープラグ、インテークヒーターとも電気抵抗により発熱させる部品なので、寿命はそれほど長くなく、定期的な交換が必要となる。稼働時間の長いトラックだけに、定期的なメンテナンスは不可欠なのだ。
トラック魂編集部