自転車店店長からの転身 ZONESは2つのコンプレックスをプロレスに転化させた女
「次から次へと大きくて強い人が出てくる。(プロレス界には)どれだけ強い人いるんだよって思いますね(笑)」
そんな頃、あるボディビルダーのSNSを見て大きな刺激を受けた。それが、プロレスを知るきっかけにもなったのだ。 「21年、22年くらいにケイラ・ロッシというアメリカのボディビルダーをインスタグラムで知りました。彼女の身体やライフスタイルがすごく好きで、彼女がプロレスをやっている動画を見たんですよね。これもすごくカッコよかったんです。鍛えた身体をこうやって見てもらえる手段があるんだと思ったのと、直感的に“これだ!”って感じたんですよ」 女性ボディビルダーのケイラ・ロッシは21年8月にAEWに初登場、ジョーイ・ジャネラを援護する形で男子レスラーにパワーボムをお見舞いした。AEWには不定期参戦し、22年から23年初頭にかけて通算5回プロレスの試合をおこなっている。試合はすべてシングルで、全勝の記録を残しているのだ。 「私にはもうひとつコンプレックスがあって、昔から『すごく雰囲気がある』とか、『目立つ』と言われるタイプだったんです。学校では先生から目をつけられがちで、目立つというだけで部活の部長をやらされたり。目立たないように小さく縮こまっていたんですよ。それがすごく嫌だったんですけど、ケイラ・ロッシ選手のプロレスを見てからは、どっちにしろ目立つんだったら人前に出る仕事をしてみたらどうだろうと思い、そこからはトントン拍子に事が進みました」 偶然見かけたプロレスラー募集に応募。それが旗揚げ前のエボ女だった。しかも男子レスラーの指導をはじめ、既存の女子プロレスとは一線を画す団体だ。プロレスを知らないだけに他団体との比較も考えず、鍛えた身体を活かせればと応募したのである。 「旗揚げ前というのは特に意識しませんでしたね。応募してから諏訪魔さん、石川さんについて調べたんですよ。調べてからすごい選手だとわかって、こんなにすごい方に教われるんだからここにしようと。ほかを知らなかったので、女子プロレスは女性から教わるものという概念もなかったです。なので、不安もありませんでした」 が、練習生になってからはトレーニングで苦労した。筋トレの経験はもちろん役立ったが、当然、筋トレとプロレスではまったく異なる。 「最初は受け身の練習ばかりでした。プロレスって見る側からしたらレスラーがいろんな技を繰り出しているように見えるけど、実際には受け身が取れないと技を教えてもらうことさえできない。最初は基礎体力、筋トレ、受け身の練習ばかりでしたね。痛いし辛いし、なかなかうまくできないし、いつになったらデビューできるんだろうと思いながら練習をしていました」 技を教えてもらえるようになったのは、デビューが近づいてからだった。それまでは徹底的に受け身を繰り返した。受け身をうまく取れなければ、ケガにつながるからだ。出たり入ったりの繰り返しながら、常時5人くらいいたという練習生。結局デビューにこぎ着けたのは、ChiChi、ZONES、サニー(現レフェリー)の3人だった。所属選手こそ3名のみだったが、エボ女興行では他団体やフリーの大物が参戦し、新人の壁として立ちはだかった。ZONESは旗揚げ戦で山下りな、第2戦で松本浩代と対戦。この人選により、ZONESの方向性が定まったとも言えるだろう。 「いま振り返るとエラい相手と試合したんだなと思います。練習はしてましたけど、闘うというのはデビュー戦が生まれて初めて。あんなに強い女性と対峙したというのも生まれて初めてです。タックルで倒してやろうと自分が突っ込んでいったのに、こっちが反対にぶっ飛ばされてしまったんですよね。それでビックリしてしまって、パニックになってしまいました。そのときに尊敬の意味ですげえと思って、こんなに強い人に自分が勝ちたいと感じました。次の松本さんも衝撃的で、まだ2戦目なのに雪崩式ブレーンバスターやられたり、もともとこの髪型なのに似てるからと引っ張られて引きずり回されて…。でも、終わったらすごくさわやかな気持ちになれたんですよ。痛みもあるけど爽快というか。それ以後もどんどん強い人が出てきて、毎回違う学びがありますし、毎回違う気持ちにもなります。次から次へと大きくて強い人が出てくる。まだあたってない人もたくさんいるだろうし、(プロレス界には)どれだけ強い人いるんだよって思いますね(笑)」