北ドイツへ「スロートラベル」! 多様な生きものを育む、地球最大の干潟を歩く
裸足で干潟を歩いてみたところ、泥はひんやりしていて滑らか。まるで泥スパを体験しているようだ。泥を持ち上げると、貝類やカニ、小さなエビ、そのほかさまざまな小さな生き物が見つかった。日本では「厚岸草(アッケシソウ)」と呼ばれている、シーアスパラガスがあちらこちらに生えている(上写真)。ペーターさんがちぎってくれた一片を食べてみると、ほんのり塩気があり、シャキシャキした食感。そのまま食べてもおいしかったが、サラダに加えるといいアクセントになりそうだ。天然のシーアスパラガスは日本では絶滅危惧種に指定されており、収穫はもちろん食べることもできない。ワッデン海ならではの、貴重な体験ができた。ちなみに、参加していたヨーロピアンは全員、すすめられても食べようとしなかった。
1971年創立のシールステーション国立公園ハウスは、母親を亡くした赤ちゃんアザラシの保護施設。毎年80~150頭の孤児アザラシが保護・飼育され、野生に戻す訓練を経て北海に還される。ワッデン狩猟監視員を中心に 、100名を超えるボランティアスタッフがセンターの活動をサポートしているという。 館内では、外のエリアにいる赤ちゃんアザラシが水中を泳ぎ回る様子を半地下のスペースから観察できる。そのほか、さまざまな種類のアザラシや、ワッデン海に関するパネルやインタラクティブ体験ができる展示も充実していた。
アザラシセンターの近くにはビーチパークがあり、たくさんの人が太陽と海と青空を満喫していた。ドッグランならぬ、ドッグビーチもあり、柵で囲まれた広い砂浜を思いきり走り回る犬たちが微笑ましかった。夏でも水が冷たすぎて泳げないものの、南国のビーチとはまた違ったよさがある。 ドイツは、公共交通機関やデパート、レストランなど、あらゆる場所に犬を連れて行けるドッグ・フレンドリーな国。料金を支払えば、電車やバスへの乗車も認められている。躾の学校に通わせるのが常識で、公共の場で騒いだり吠えたりする犬を見ることはほとんどない。犬は人間と対等な立場にいると考えられおり、犬税と呼ばれる税金を納める義務も課されている。 ワッデン海の干潟がもたらす生物多様性を体感し、ゆったりとした時間を楽しむ旅。心を豊かにし、自然と人間のつながりを再確認させてくれる「スロートラベル」に、最適な場所だった。 協力:ドイツ観光局、Seehundstation Nationalpark-Haus(シールステーション国立公園ハウス)、photo&text:鈴木博美