インタビュー:トランプ政権「反トラスト法緩和なら、日本企業のM&A押し上げ」=シティ日本法人副会長
Miho Uranaka Anton Bridge [東京 6日 ロイター] - 米シティグループの日本法人副会長で、投資銀行部門トップの福田祐夫氏は、トランプ次期米政権下で期待される反トラスト法(独占禁止法)の規制緩和について、同国内の合併・買収(M&A)を促し、日本企業による米国企業の買収活動も活発化する可能性があるとの見方を示した。ロイターとのインタビューで語った。 トランプ次期米大統領はテック大手の独占を問題視するバイデン政権の方針に対し異を唱えており、就任後は競争法の運用緩和に乗り出すのではないかとの観測が出ている。 福田氏は、次期政権で反トラスト法の規制緩和が実現した場合、「日本企業でも米企業買収に当たっては、承認が通りやすくなるという環境はプラス」と指摘。米企業同士の買収やそれに伴う事業整理により、日本企業が買収できる対象が増加するとも説明した。 共にロイターのインタビューに応じた金融法人本部共同部長でM&Aを統括する安久芳伸氏も、トランプ政権下では米国での投資が求められることもあり「日米のクロスボーダー(国境をまたぐ)買収は間違いなく増える」との見解を示した。 これまでも人口減少の日本から先進国の中でも人口増加が続く米国市場へ成長機会を求める日本企業は多いが、規制緩和がこれに拍車をかけるとみる。 LSEGがまとめたデータによると、2024年1-9月期の日本企業による海外企業の買収は前年同期比65%増となる6兆8432億円で2019年以来5年ぶりの水準となった。なかでも米国を主とする南北アメリカ地域の買収は4兆7282億円と全体の約70%を占めた。 日本生命保険が米生命保険事業を展開するコアブリッジ・ファイナンシャルに出資、積水ハウスが米住宅大手M.D.Cホールディングスを買収した。鉄鋼大手の日本製鉄は、同業のUSスチール買収計画を進めている。USスチール買収を巡っては、トランプ次期大統領が繰り返し反対を表明している。シティは日鉄の財務アドバイザーを務める。 <海外からの買収検討も増加> 一方で、カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案に代表されるように、海外の事業会社による日系企業に対する関心も高まっており「買収検討の話が増加している」と福田氏は語る。 背景について福田氏は、経済産業省がM&Aにおける望ましい対応をまとめた「企業買収における行動指針」や東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対する是正要請、物言う株主(アクティビスト)をはじめとする株主の圧力など、買収提案しやすい環境が整ってきたと説明する。 安久氏によると株主利益や企業価値を意識した経営の高まりから、企業が事業ポートフォリオを整理していく中で、「より買いやすい、あるいは魅力度の高まった対象が今後増えていくという側面もある」という。 福田氏は、海外からの企業買収が増加するのに絡んで、ホワイトナイト(友好的な買収者)のような日本企業による日本企業の買収も増えると予想。「ここから日本のM&Aは倍増する」と期待を込めた。 シティは、日本を注力市場の一つに掲げ、福田氏の下で投資銀行部門を強化してきた。同氏は案件獲得のカギは「差別化」といい、M&Aについても「ハイエンドでより複雑な意義のある案件」を中心に手がけていく意向を示している。特に競争力が弱かった株式資本市場部門も人員を増強し、11月の関西電力による公募増資では、国内証券会社が名を連ねる中、唯一の外資系証券として主幹事を務めた。 *インタビューは3日に実施しました *写真を差し替えて再送します