21世紀版大陸移動説(上) 生前に研究が認められなかったウェゲナーの悲劇
大陸移動説の重要性
どうして大陸の移動現象が、地球を科学的に探求する上でそれほど重要なのだろうか? まず大陸が移動すれば、その衝突やひずみなどによって地震や津波の原因になることが現在知られてる。大山脈などの起源はほとんど大陸移動と結びついているはずだ(ヒマヤラ山脈はインド大陸とユーラシア大陸の衝突によって誕生した)。大陸の位置は(黒潮など)海洋や大洋の潮流パターンを変えることもできるだろう。そのためグローバル規模で気候の変化をもたらすことも可能なはずだ。陸生生物のマクロ進化にとっても重要なはずだ。オーストラリアのコアラやカンガルーなどの有袋類は、何千万年にわたる孤立した大陸のおかげで、大繁栄をとげることができた。こうした大小さまざまな現象は数え上げればきりがないくらいだ。 私が現在ここアラバマ大学で講義を受け持つ地質学概要(Geology 101)で使う教科書をひも解けば、「大陸移動」のくだりは第2章にみられる。イントロにあたる第1章のすぐ後だ。その他の章―例えば鉱物、岩石、火山、地震、生物進化、河川、海洋、気候の変化など―は、後塵を配している。この事実は大陸移動説の重要性を示している。しかし大陸移動説のスケールの大きさは、なかなか一般にあまり伝わっていない印象を受けるのは私だけだろうか?
例えば現在96人の大学生が、この春学期に私の講義を受講している。その多くが地球科学ではなく、心理学、医学、アート、ビジネスなどを専攻している。サイエンスの単位をとる必要があるために受講している生徒も少なくない。地質学の知識などほとんど持たない学生も多数みられる。ダーウィンやアインシュタインの名前は聞いたことがあっても、「ヴェーゲナーて誰?」という反応を毎回多数目にするのが現実だ。ドイツ人のオペラ作曲家(リヒャルト)ワーグナーとは、スペルも発音も違う! 教師として腕のみせどころ。しっかりとウェゲナーの偉大さ・魅力を伝えなければと、わたしの教え方も自然と熱を帯びることになる。しかしこうした大学生を相手に「大陸移動説」の重要性を伝えるのは、なかなか簡単ではない。北極の白熊に大きな冷蔵庫を売りつけるノルマを課せられた、セールスマンになった気分にすらなる。 私の独断と偏見―そして少しばかりの直感―にもとづけば、以下3点の理由でウェゲナーの大陸移動説は重要で興味ぶかい。(1)ウェゲナーの生涯、(2)生存時と死後30年にわたる酷評、そして(3)1960年代以降の再評価における一連のストーリーだ。地球の構造などを専門に研究している方は、もう少しはっきりした細かな理由を挙げられるかもしれない。門外漢の私だからこそ、サイエンス史をおもぬろに見回してみて、いくつか思い当たる点、もある。以下に大まかな流れをかいつまんで紹介してみたい。