ハリのある風合いが持ち味の遠州織物 伝統の技をつなぎませんか? 初の就業体験が盛況 くらしと工芸
さらりとしたハリのある風合いが持ち味の遠州織物。江戸時代から生産が続く静岡県西部の工芸品で、綿や麻、絹、羊毛など多彩な素材でさまざまな生地が織られてきた。そんな伝統工芸の現場で9月中旬、インターンシップ(就業体験)が初開催された。一般に門戸を開く珍しい試みだ。 【写真】遠州織物で作られた洋服には、素材ごとにそれぞれの味わいがある 鈍色(にびいろ)の重い扉を押し開けると、ガタゴト、ガタゴト、規則的な機械音が耳をつんざいた。同県磐田市にある丸三織物は、布を織る前に、経(たて)糸を整える準備工程「整経」の専門工場を持つ、数少ない事業者だ。 遠州織物の特徴は、撚糸(ねんし)、糸染め、整経、糊(のり)付け、織り、染色、加工-と工程ごとに、特化して技を磨いた専門の職人がいること。なかでも糸を均等に並べ、張り具合を調整する整経には、熟練の丁寧な手作業が欠かせない。 ■手作業欠かせぬ「整経」 一人前になるには10年 糸を巻き取るドラムの前で、女性職人が数十本の麻糸を手のひらにかざす。1本1本、目と指先の感覚で切れや傷がないか確かめ、張り具合を調整し、ドラムの上に均等に並べる。その手つきはまるで操り人形のように規則的。120センチ幅の生地を織るために、3000本の経糸を整然と並べるのだという。 同社が得意とする麻糸は、繊維の細さにむらがあり、切れやすい。一本でも糸が絡まると、一からやり直し。絡まないよう切れないよう、糸の張り具合と機械の調子を加減する。長年の経験だけがものをいう繊細極まる作業だ。「簡単に見えるかもしれないが、一人前になるには10年はかかる。僕も最初の2、3年は怒られてばかりでね」とは、整経一筋30年という同社の加藤寿佳(ひさよし)社長(53)。 整然とそろえられた麻糸が何百本、何千本と合わさって大きなドラムに巻かれていく様子は圧巻で、職人の見事な指使いから目が離せなかった。 一般的な量産品とは違い、遠州織物は糸が職人たちの手から手へと渡りながら丹念に紡がれ、時間と手間をかけてゆったりと織り上げられる。そのため、綿や麻、絹といった素材ごとの自然な味わいが生かされている。あるものはふっくらとやさしく、また別のものはさらりとハリのある触り心地。いずれも使うほど肌になじむ独特の風合いがある。洋服の生地としてアパレル業界からの高い人気を誇る。 後継者不足の克服へ新たな試み