イスラエルが「大規模な報復」をしにくい理由
イラン本土への反撃はさらなる報復攻撃を招く可能性が高く、大国同士の衝突につながりかねない。またヒズボラやフーシなど連携する武装組織も同調し、中東全域に戦闘が拡大していく恐れがある。 ■緊張を過剰に高めない範囲でいつ報復するかが焦点 そのように地域的な緊張を過剰に高めない範囲で、いつどの程度の規模で報復をするかをイスラエルでは協議している途中と思われる。 ――イスラエルと、ガザ地区のハマスとの戦いは今後どうなるでしょうか。
錦田 ハマスは、イスラエル軍のガザからの完全撤退や、ガザ北部への避難民への帰還、恒久的な停戦などを要求している。だがこれらの条件はイスラエルにとって受け入れがたく、交渉が難航している。 一方イスラエルでは、いまだに130人以上の人質を解放できておらず、世論の批判が大きい。人質の解放が達成できない限り、戦闘を終えられない状況だ。 イスラエル軍はハマスの拠点の制圧と、戦闘員の殺害をガザ北部から展開してきたが、南部のラファにも侵攻し、ガザ地区全土から脅威を取り除いたと宣言できるようになるまで戦闘を続けるのではないか。
――イスラエルが求める人質の解放とハマスの壊滅は、矛盾するのでは。 立山 地域に溶け込んでいるハマスは軍服を脱げば民間人と変わらず、避難民として暮らしている人もいる。ハマス壊滅は軍事的に不可能だが、ネタニヤフ政権としては掲げてしまった以上引き下がれないのだろう。 もしイスラエルがラファに侵攻すれば、民間人の犠牲は増え、人道危機も深刻化する。アメリカ・バイデン政権は人道危機の深まりに相当いらだっており、与党民主党内にはイスラエルへの兵器供与を制限すべきとの声も上がっている。それだけにバイデン政権との関係はかなり悪化する危険がある。
一方で国際世論も変わりつつある。3月25日には、アメリカが初めてガザでの停戦を求める安保理決議で「反対」ではなく「棄権」を選択した。アメリカが拒否権を使ってでも反対することが難しい状況になっている。 ――イスラエルでビジネスを行う企業が気をつけるべきことは。 立山 この10年ほど、イスラエルへ進出する日本企業が増えたが、その前提にあったのはイスラエルが安全な国で、高度な技術を持っているというイメージがあったからだ。しかし決してそうではない。
イスラエルには、パレスチナ問題による地政学リスクがあったにもかかわらず「たいしたことがない」、あるいは「パレスチナ問題などない」という思い込みがあったのではないだろうか。 イランとの関係が悪化し、レバノンのヒズボラからの攻撃も激化すれば、イスラエルの安全はますます脅かされる。イスラエルとの関係拡大を見直す機会になるのではないか。 紅海周辺でのフーシ派による船舶の攻撃リスクは、ガザでの戦闘が続く限りなくならないだろう。
兵頭 輝夏 :東洋経済 記者