「神絵が1分で生成される」 進化するAI、イラストレーターの仕事を奪うのか
はじめは「廃業じゃん」と思った
852話さんは、背景美術なども手がけるプロのイラストレーターだ。AIに仕事を奪われるとは思わなかったのだろうか。 「思いました。『これもう職なくなるじゃん。廃業じゃん』と。でも、敵対したら自分が苦しくなるなと思ったんですよね。この技術はもっと発展していく、だったら相手のことをよく知って、味方にしていくことのほうが大事だなと思ったんです」 実際に出力する様子を見せてくれた。キャラクター生成に強いAI「にじジャーニー」にログインして、「ダンディー オシャレ セーター タバコ」と打ち込む。1分足らずで4枚のイラストが出力された。
「ちょっと今、女の子が出ちゃいましたね」 4枚のうち1枚、女の子が交じっていた。 「『ダンディー』と入力している時点で、女の子が出力されてくるとは想像していないわけじゃないですか。でも出てきちゃう。そういう意外性におもしろさを感じます」
画像生成AIの倫理的な問題点
AIとの共存共栄を志向する852話さんから見ると、クリスタが画像生成AI機能の実装を取り下げたことは、「時期を待ったほうがよかったように思う。少しもったいなかった」と映った。 クリスタは出荷本数2500万本を超える、マンガ家やイラストレーター、デザイナーに人気のアプリだ。海外ユーザーも多い。 「私が見ている限りでは、海外のほうが反発が大きかったですね。というのは、クリスタが実装しようとしていた『Stable Diffusion』というAIは、学習元のデータをめぐって問題になっていたんです」
Stable Diffusionは「文字→画像」型のAIだ。昨年9月、カリフォルニアを拠点とするAIアーティストが、Stable Diffusionの学習元のデータセットの中に、かつて医療記録用として撮られた自分の写真を発見した。医師が撮影した画像が不正に流出し、データセットに取り込まれたものと見られている( https://arstechnica.com/information-technology/2022/09/artist-finds-private-medical-record-photos-in-popular-ai-training-data-set/ )。 Stable Diffusionは約50億枚の画像を学習していると言われる。著作物についてどの国の法が適用されるかは、基本的には、著作物の利用行為や著作権の侵害行為が行われた地の法律になる。日本の著作権法は、「情報解析」のためなら著作物を著作権者の許諾なしで利用できるとする。しかし、自分が描いたイラストが取り込まれていると思うと「嫌だ」と感じるのも無理はない。