工藤公康が監督をして気付いた「部下に信頼されるコツ」 声を荒らげて叱った“手痛い失敗”から学んだ「選手との向き合い方」とは
一人一人の選手にあいさつもかねて声がけ
そこで私は、毎日の練習前、グラウンドで一人一人の選手にあいさつもかねて声がけをするという方法を考えました。その場で長時間粘ったりせず、選手にかけるのはあくまで“プラスひと声”。例えば「今日も頑張れよ。頼むな」くらいです。まずはそうして信頼関係を構築しようと考えたのです。 それだけでも継続していると、選手の反応でその日の調子が分かるようになりました。あまりノッていない選手は目をそらしたり、作り笑いがひきつったり。全選手にあいさつをしながらそうしたささいな“サイン”を見逃さず、後でゆっくり話す時間を取るようにしたのです。こうした努力を続けるうちに、選手も次第に心を開いてくれるようになり、結果的にバックグラウンドを話してくれる選手が増えていきました。 ただ、選手の話をじっくり聞くからといって、彼らがやりたいことを何でも許容するというわけではありません。大切なのは、あくまでも選手がチームの一員として力を発揮できるベストな役割を与えてあげることです。 シーズンが終わると、担当コーチなどと相談しながら全選手に対して翌春のキャンプインまでに克服すべき課題を伝えていました。その際には「なぜそれを今やるのか」「それを克服したらどうなるのか」を裏付ける資料も作り、説明責任を果たすようにしました。
上司として信頼されるコツ
正直に言えば、今の若い子たちの中には、そこまでしても課題に取り組んでこない選手も多かった。でも、それでもいいんです。まずはそうやって課題をデータとして残してあげることが大事。そうすれば、本人が後になってそれを見返したときに、大切さに気付くかもしれません。それでは手遅れということもあるでしょうが、上から言われるのではなく、本人が気付かないと選手の力にはなりません。 中間管理職という立場で、部下に何かを強制すれば「パワハラ」と言われかねない。そんな社会の風潮に戦々恐々の方もおられるでしょうが、今のリーダーは、環境を用意し、その方法論を提示して、本人が理解するのを待つのも重要です。 そういったことを繰り返し、部下が結果を残せるようになって初めて、上司への信用が生まれる。「あの人の言う通りにやったらうまくいった」「ミスをうまく修正できた」というのが、上司として信頼されるコツだと思います。 繰り返しになりますが、監督は、選手やコーチとフロントの間に立って、チームが機能するよう、常に準備する人間です。上層部の要望を聞きながら、リーダーとして現場を束ねる立場は大変ですが、それで結果を出す喜びは何物にも代えがたい。それがプロ野球チームの監督という中間管理職を経験した私の率直な感想です。 工藤公康(くどう・きみやす) 1963年、愛知県生まれ。名古屋電気高校(現:愛工大名電高校)卒。82年にドラフト6位で西武ライオンズに入団。以降、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズなどに在籍し、現役中に11度の日本一に輝く。2011年に引退後、15年から7年間にわたり福岡ソフトバンクホークスの監督を務める。主な著作に『プロ野球の監督は中間管理職である』など。 「週刊新潮」2024年12月26日号 掲載
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