【阪神JF】伊藤大師の思い!コートアリシアンよ、夢のG1初制覇へ差し届け
秋G1シリーズの水曜企画「G1追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけ本音に迫る。2歳女王を決める「第76回阪神ジュベナイルフィリーズ」は東京本社の万哲こと小田哲也が担当。新潟2歳S2着から挑むコートアリシアンの伊藤大士師(52)に愛馬への思いを聞いた。 伊藤大師はコートアリシアンが美浦で初めて追い切った時の“衝撃”をはっきり覚えている。今年5月22日。Wコースで5F69秒4~1F11秒1を、手綱を持ったままで計時したのだ。 「春の時点では体はもっと大きくなってほしいとかあったんですけど…。いきなり、1F11秒1でしょ?つらっと(当然のような顔をして)何でも淡々とこなして、何もなかったように普通に走ってきた。これは違うな…と。走らせると凄くいい。気持ちがしっかりしているんです」 入厩前から楽しみにしていた期待馬だった。母コートシャルマン(父ハーツクライ)は12年安田記念を制したストロングリターンの半妹。現2歳がファーストクロップとなる新種牡馬サートゥルナーリアに、指揮官はホレ込み、手がけたいと熱望していた。 「クラシックや有馬記念(2着)も走ったし、金鯱賞も強かった。お兄さんのエピファネイア、リオンディーズも種牡馬で活躍していますし、血統がいい。サートゥルは体のバランスが良くて、性格もいい。何より(祖父の)キングカメハメハですよね」 アリシアンの6月8日の東京新馬Vが同産駒JRA初白星。産駒の2勝目も同じ伊藤大厩舎のミライヘノブーケ(牝)。見込み通りの父の活躍だった。 東京新馬戦は1馬身出遅れたが、すぐ中団へ。直線は一瞬で前に取り付き、メンバー最速の上がり3F33秒3で5馬身突き抜けた。重心が上に分散しない、地面をしっかり捉えた理想的なフォームで、鞍上の指示にも機敏に反応する。同師も「走りに無駄がない。“省エネ”なんです」と目を細める。その上で「競馬場に行くとスイッチが入りますが、普段の厩舎では本当におとなしい。無駄なことをしない。オンとオフがはっきりしている」とA級馬が持ち合わせている“闘争本能”も感じ取っている。 1番人気に推された新潟2歳S(2着)は道中で行きたがったが、それでも直線半ばで先頭に一度立った。勝ち馬トータルクラリティ(次週朝日杯FSの有力馬)に差し返されたが、上がり3F33秒9は再びメンバー最速だった。 「ゲート裏でメンコ(覆面)を外したのですが、結構燃えていて、折り合いを欠きました。ゆっくり追い出そうとしたけど、他の騎手の声やムチに過敏に反応して…。ただ勝負に行っての結果。僕自身は納得しています。猛暑の中、新潟への長距離輸送をちゃんとこなしてくれたのも収穫でした」 前走後は阪神JF一本に絞って、山元トレセン(宮城県)で充電を図った。11月15日に美浦に帰厩した。 「いいリフレッシュができました。背も伸び、成長しました。体も450キロ台(前走は434キロ)はあります」 新コンビの戸崎が騎乗した1週前追いはメンコを着用し、Wコースで6F81秒8~1F11秒3(馬なり)と強烈な伸び。体にボリュームが出て、夏よりパワフルさを増した。「今まで以上に、つらっとしていて、本人は何とも思っていない感じでこれだけ動いてます。戸崎ジョッキーが感触をつかんでくれたのも良かったです」 伊藤大師が上原博厩舎に在籍した調教助手時代、G1・5勝のダイワメジャー(コートアリシアンと同じ社台ファーム生産)と巡り合った。新馬のパドックで寝てしまったメジャーの経緯もあって、伝説の“3人態勢”のパドックで付きそう伊藤助手の姿を覚えているファンも多いのでは? 「ダイワメジャーの縁もあって(馬主の)吉田照哉社長、社台ファームさんが毎年(1世代に)1頭うちに預けてくださってます。そのおかげですね」 09年開業の16年目。先月29日に52歳の誕生日を迎えた指揮官は努めて肩の力を抜き、決戦を待っている。「馬は成長しています。京都外回りも合うと思う。僕も52歳。未勝利でもG1でも同じように自然体でいければ。仮に届かないで終わったとしても、最後伸びて来年につながる競馬ができればいいな…と思っています」 父サートゥルの産駒G1初制覇、厩舎悲願のG1初優勝へ。アリシアンには無限の夢が詰まっている。 ◇伊藤 大士(いとう・だいし)1972年(昭47)11月29日生まれ、愛知県出身の52歳。96年JRA競馬学校厩務員課程入学、97年4月に美浦・森安弘昭厩舎で厩務員、同年6月から同・上原博之厩舎で調教助手。09年5月に厩舎開業。同年7月11日の福島10R(ショウナンダンク)で初勝利。20年ダイヤモンドS(ミライヘノツバサ)、23年ニュージーランドT(エエヤン)でJRA重賞2勝。同通算4372戦204勝(3日現在)。 【取材後記】この稿、はっきり言って応援100%。助手時代から20年近く世話になってきた伊藤大師にG1初制覇の機は熟したと思っている。 「小田さん、いつも厩舎に来てくれるけど、何も貢献できていないですよ」 いつ行っても、笑顔で迎えてくれるのがうれしい。週刊Gallopなど競馬書物が大好きな根っからの競馬人。自厩舎はもちろん、他の厩舎の馬もよく見ている。血統も詳しい。ポジティブに核心を話してくれるのでハッピーになれる。毎年2桁白星を挙げ、今年はキャリアハイの年間20勝(現在18勝)も視界に。 「取材に来てもらって、初めて分かることってありますよね?」。こちらの思いもくんでくれるのがありがたい。実戦は引っかかって、やんちゃなイメージがあるコートアリシアンも普段は優等生。1週前追い騎乗の戸崎からは「オークスまで行けそう」と熱いジャッジをもらったのも、包み隠さずに明かしてくれた。 実は伊藤大厩舎の馬はたくさん貢献してくれていて、昨年ニュージーランドT(◎エエヤン=3連単8万8850円的中)などプレゼントしてもらっている。 来年が楽しみになるようなレースを…。愛馬の将来も大切にして、平常心で眼前の仕事に没頭する指揮官同様、僕も肩の力を抜いて応援したいと思う。 (小田 哲也)