【明日公開】映画『お母さんが一緒』で橋口亮輔監督が感じた新たな“気づき”とは? 人気俳優との制作秘話も
江口のりこと2回目のタッグで得た気づき
──江口さんは『お母さんが一緒』の脚本を読む前に橋口監督の作品ということで出演をOKされたそうですね。 はい。現場でも、すーって近づいてきてぼそっと「私、今回の作品をやれて本当に良かったです」って言ってくださって。二人でぼそぼそっと撮影の合間の数分間でいろいろと話すんです。 そこで江口さんが言っていたのは、「自分としては心をめいっぱい使って演じたのに、完成した作品を見たら自分の心の動きが何も映ってなかったことがあった。それを見て、“自分は何のためにこの仕事をしてるんだろう”“何のために作品を作っているんだろう”と思いとても落ち込みました。でも橋口さんがリハーサルをやって、『昔こういう女性に会って、弥生だと思った』とか今回の作品に関係ないワークショップで出会った女性の話とか、いろいろな話をしてくれたことで弥生のイメージが膨らんで、自分が掴みたいところを引き寄せていって、だんだん弥生になっていく感覚を久々に味わえて嬉しい」。 そうやって江口さんが楽しんでくれたことが僕も嬉しかったですね。例えば、弥生と愛美が激しく衝突するシーンの、お互いが何かを出し合って、それに反応し合って、また芝居が変わって行くようなやりとりを見て、「江口さんはルーティーンではなく、こういう風に作品作りを楽しみたい人なんだな」と思いました。 ──江口さんとは『ぐるりのこと。』以来、2度目のタッグはいかがでしたか。 『ぐるりのこと。』で江口さんはリリー・フランキーさんと木村多江さんが喧嘩をしている時に「うるさいよ」と怒鳴り込んでくる隣人の役でした。台本には「ちょっと静かにしてくれません?」っていう一言が書かれていただけだったんですが、江口さんがアドリブでいろいろなセリフを付け足してくれたことでその場の空気が破裂したようなシーンになって。江口さんによって緊張感が弾けて、後半の木村さんがわっと泣き崩れる場面にいけた。「すごい人だな」と思いました。 このシーンの撮影後に、外に出たら江口さんが衣装のままでいたので「どうだった?」と訊いたら、「難しかったー!」って言っていたことをすごく覚えています。その後、皆さんもご存知のように売れっ子になられたので、今回「江口のりこよ」みたいな高飛車な感じで現場に来られたらどうしようかと思ったんですが(笑)、全く変わらず本当にお芝居が好きで真摯に取り組んでくださる方でした。 ──古川さんとは今回初めてご一緒されてみて、いかがでしたか。 古川さんの以前の作品を見て、演技力は間違いないと思いました。以前の作品を見た時、「感性で演じられている人なのかな」と思ったんです。今回のリハーサルの時に「ここのお芝居やりにくくない? 大丈夫?」と訊いたら「私は今この人の目を見たくないので、背中をこうやって向けてセリフを言ったんです」とおっしゃっていて、全部計算して演技の組み立てをされているので驚きました。江口さんも「古川さんはすごく人のことを観察しているので、私の芝居によって古川さんの芝居も変わっていく」とおっしゃっていました。 古川さんに「でも、ここでこうなるからこういう風にしてほしい」と修正をお願いすると、自分の組み立てにちゃんとその要望を組み込んでお芝居ができるので、「まだ26歳なのに大した方だな」と思いました。江口さんも「変な人が一人もいない」って言ってましたけど、慈ちゃんも含めて3人ともお芝居が好きで、だからこそチームワークが良く、ずっと集中力が途切れずに撮影ができた。そのおかげで成立した作品だと思います。喧嘩ばかりしてるけれど、基本はコメディなので、役者さんが生き生きと楽しく演じているということが画面にも出ていると思います。 ──見る側としても「この役がこう来たら、今度はこの役がこう来る」という応酬にとてもワクワクさせられました。 そうなんですよね。僕が演出していないところもいっぱいあります。弥生と愛美が喧嘩になって、それを見ている清美が弥生に「お姉ちゃん(弥生)が一番悪い」って言うと、弥生が「あんただけは私の味方だと思ってたのに」って言って弥生が出ていこうとするシーンがありますよね。あのシーンは僕は動きだけは指示しましたが、弥生が逃げようとする際に襖を開けたり締めたりっていうことは演出してないんです。呼吸が合わないとああいうお芝居はできないですよね。青山くんも含めて、とても相性の良い4人でした。