12.23横アリで豪華3大世界戦。村田諒太V1戦はKO率80%の“番狂わせ遺伝子”を持ったWBO1位
バトラーはリーチを生かした左ジャブから荒々しくパンチを振り回してくる右構えのボクサーファイターである。右ストレートで仕留めるパターンが目立つが、ここまでの戦歴の中に名だたるボクサーはいない。 ボクシングオタクの村田でさえ「対戦候補に名前が挙がるまで映像も見たことがなかった」という存在だった。 しかも、2017年1月に行われたスーパーウェルターのローカルタイトル戦では、ブランドン・クック(カナダ)の右のカウンターを浴びてTKO負け。その後、10連勝しているが、今年5月のビタリ・コフィレンコ(ウクライナ)とのWBCインターナショナル・ミドル級王座決定戦では、左フック、左ボディで2度ダウンを喫し、そこから逆転で判定勝利するという冷や汗ものの試合内容だった。ディフェンス技術は高くなく、打たれ弱い。インファイトも苦手にしている。 「彼は打たれ強くない。KO必至? まあ、そうなるでしょう。スタイル的に噛み合うと思う。どっちが勝つにしても面白い試合になると思います」 村田は、すでにKO決着パターンをイメージしている。 タイトルを奪還した7月のロブ・ブラント(米国)との再戦では、重心を下げ、積極的に前へ出る超攻撃的スタイルに変貌を遂げて2ラウンドで試合を終わらせた。 「スタイルは確立できた。ブラント戦のような戦いになると思う。プレッシャーをかけると相手が浮き足立つ」 ガードを固めて強引に前へプレスをかけてボディからのバトラー破壊。バトラーは足を使うので「追う村田」「下がるバトラー」の展開になるだろう。ただバトラーも「確かに強いガードだが、そこにヒットを重ねることはできる。ブラント戦だって打たれていたじゃないか」と打ち合いに挑む準備は整えているようである。
筆者の予想は、村田の早期KO決着ではあるが、ただ一つネガティブ要素があるとすればモチベーションの問題である。 当初、6階級制覇王者、マニー・パッキャオ(フィリピン)に土をつけたジェフ・ホーン(豪州)にターゲットを絞り交渉が進んでいたが、前哨戦で、まさかのKO負け。対戦候補が宙に浮き、村田を困惑させていた。 「ホーンならわかりやすく、テンションも上げやすかった。でも、これも運命」 バトラーがWBOの指名挑戦者であることを考えれば、間違いなく、この試合は、最終目標とする統一王者、サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)、IBF世界同級王者、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との究極マッチ実現のためのパスポートにはなる。 そこは、モチベーションにつながって然りだが、「ミドル級は混沌としていて世界ランクに見合わない強い選手もいる。そういう意味でランキングは指標でしかない。本質的なところで1位であることは関係ない。タイトルにしても飾りみたいなもの。それより大事なのは、僕とあいつが戦うということ」と言う。 公式会見では、「ボクサーとしてやりたいこと、かなえたい夢がある。そのための一歩にしたい」と、究極マッチ実現のために負けられない試合であることを口にしたが、その一方で「この試合にどれだけ集中できるか。先を見ているとダメ」とも話している。 そこに揺れる村田の胸中が見え隠れしている。 ブラントとのリベンジ戦後に名前が通っているわけでもないバトラーでは燃えるものをみつけにくい。 何か戦う理由になるものを見つけていないのか?とも聞いたが、「これのおかげというものはない。総合的にはあるのかもしれないが、核になるようなものがあったかと言えば、それは違うし、僕の仕事を男として全う、遂行するだけ。そのための燃料はあったと思うが」と、小難しい話を返した。 「もっと成し遂げたいものがあるが、その気持ちを持ちすぎると集中できなくなる。綺麗ごとはいらない。自分の気持ちに素直になり、モチベーションをコントロールすることが重要になる。そこにハウツーはない」 ただ足元をすくわれれば、「もう一丁」がない状況であることは理解している。ブラントとの初戦は、先を見すぎてモチベーションを失い、失敗したが、もうその過ちは犯せない。 「いつも崖っぷち。負けてもう一回はない。どの試合も負ければ引退が常によぎっている」 試合までの2か月。村田が、“内なる戦い”をどう制するのか。 今回の初防衛戦の相手はバトラー一人ではない。 会見最後の恒例の写真撮影。 村田が流暢な英語でバトラーに色々と説明してやっていたが、挑戦者はニコリともしなかった。 「目を合わしてこなかった。オレのことを怖がっているかな」 そう語ったのはカナダ人挑戦者。 早くも戦闘モードだが、村田は「やんちゃなイメージだったが、今日に限っては、そんな感じがしなかった。肌質が若い、表情が若い気がした(笑)」と受け流した。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)