おばあちゃんたちの「あったかもしれない楽園」を描いたシュールで示唆的なAIアートが世界を席巻!
シンガポールのAIアーティスト、ニセアウンティーズ(Niceaunties)は、東南アジアと東アジアに存在する「おばあちゃんの文化」をテーマに作品を制作している。彼女の作品は現在、SNSで広く共有されるだけでなく、クリスティーズやフィリップスなどのオークションにも出品されている。また、メキシコで2024年2月に開催された「ZONA MACO GROUP SHOW」をはじめ、ドイツ、ロンドンのギャラリーや、パリのグラン・パレなど世界各地で毎月のように展示を行っている。 ニセアウンティーズが描く世界は、1930年代初頭にシンガポールで生まれた自身の祖母を含む、年配の女性たちから着想を得たもの。彼女の祖母は適切な教育を受ける機会に恵まれず、幼い頃からゴム農園で働き、お見合い結婚をして8人の子どもをもうけた。彼女は毎日家に居り、洗濯をし、家族のためにご飯を作った。そして最後の20年間は認知症を患い、寝たきりの生活を送った。ガーディアンのインタビューに対して、ニセアウンティーズは、「私が子どもの頃、祖母はたくさんの感情を持っていましたが、それを誰にも話そうとしませんでした」と語る。 彼女は作品を通して、抑圧されたこの世代の女性たちの「これまでとは違う人生と奔放な自由」を想像する。また、おばあちゃん世代特有の、勝手なことを言ったり、いらぬ質問をしたりするような習性も作品の中に反映させた。ニセアウンティーズは、彼女たちの特性について、次のように話した。 「本当に面倒見が良く、親切で、食べ物をたくさん食べさせてくれる人から、本当に意地悪で、人物を見た瞬間に侮辱する人まで、行動のスペクトルは幅広いのです 」 また、作品には、孤独や孤立、環境破壊といった暗いテーマも扱われている。「Auntlantis」シリーズは、プラスチックごみによる海洋汚染を描いた。魚たちはペットボトルを吸収して巨大化し、おばあちゃんたちは浜辺で世界がきれいだった時代を回想する。 建築デザイナーでもあるニセアウンティーズは、AIで画像や動画が生成されるツールを複数駆使して作品制作している。 しかし現在、AIを使ったアート作品には賛否両論ある。アメリカでは、アーティストが自分たちの作品がしばしば許可なく使用されているとAI企業に対して集団訴訟を起こしている。そしてAIの技術がアーティストの生活やクリエイティブ産業の未来を脅かすと警告する者もいる。彼女自身、AIの使用に反対する人々から爆破予告を含む脅しを受け取ったことがあり、そのために偽名を使って活動している。 この状況についてニセアウンティーズは、「変化は避けられないものだと思います。世界は変わりつつあり、私たちは様々な方法でそれに立ち向かうことができるのです」と語った。 だが一方で、インドやアメリカといった異なる文化圏の人々からも、描かれたテーマに共感するなどの好意的な意見が寄せられている。ニセアウンティーズは制作する中で、考え方が変わっていったという。「今では、おばあちゃんたちがとても愛おしく思えます」と彼女は言う。
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