『五香宮の猫』想田和弘監督 日常の「観察」から、いかにしてドラマはたちあがるのか【Director’s Interview Vol.444】
第1編はもうめちゃくちゃ、超絶つまらない(笑)
Q:「観察映画の十戒」によれば、編集作業もテーマを決めずに始めるそうですね? 想田:そうです。まず素材を全部見ますよね。見ながら文字に書き起こして「面白かったな」、「映画的だったな」と感じたシーンから編集していきます。結局、僕らが何故ドキュメンタリーを撮るかと言えば、自分が見た面白いものを共有したいからじゃないですか。だからその原点にかえって、積み重ねていけばいいだけなんです。 Q:面白く撮れた素材は編集していても楽しいですよね。逆に面倒だと思いながら編集するシーンは面白くない。 想田:そうなんです。なんだか理屈っぽくなってしまう。特に先にテーマがあって、それに沿って構築しようとすると理屈っぽくなる。「ああ、これは面白かった」ということをシーンごとに編集していく。すると面白かったシーンが例えば70、80ぐらいで出てきますよね。それを「こんな順番かな」と考えながら1本に繋げます。するとそれが第1編になる。その段階で僕と妻の柏木で一緒に観るんですけど、第1編は大抵もうめちゃくちゃ超絶つまらない(笑)。面白いシーンばかり集めているはずなのに。こんなもののために苦労したのかって(笑)。 Q:しかも尺も大分長いですよね? 想田:4時間とか5時間とか。2人とも船を漕ぎながら「駄目だな」って言いながら観ている(笑)。でもいつも最初はそんなものですから気にしないで、第2編、第3編とどんどん編集を重ねていくわけです。その度に柏木と観て、何が上手くいっていて、何が上手くいっていないのか。じゃあこうしよう、ああしようとディスカッションをしているうちに、段々と発見が生まれてくるんです。 Q:例えばシーンとシーンの関係性といったことを発見していくのですか? 想田:それもそうだし、全体の構造も決まってくる。第3編くらいまではかなり直線的な構成でした。春から夏、秋になって冬で終わるといった。その段階で柏木が「これ、また春に戻った方がいいんじゃない?」と言い始めて、「ああ、そうだな」と。それは僕にとってすごい閃きというか、電気がついたような瞬間でした。「ああ、そうかもしれない。そういうことを僕はこの映画で撮ろうとしていたんじゃないかな」って。そこから直線の映画ではなくサイクルの映画になるわけです。 Q:冒頭とラストの桜が印象的でしたが、そういうサイクルを意識したわけですね。 想田:季節も循環するし、太陽も生と死も循環する。これは循環についての映画なんですよね。そういう構造も編集をしながら発見していきました。
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