『五香宮の猫』想田和弘監督 日常の「観察」から、いかにしてドラマはたちあがるのか【Director’s Interview Vol.444】
テレビで学んだ付箋ペタペタ編集
Q:例えばNHKのドキュメンタリー番組の編集では、シーンの要素を付箋に何枚も書きだしてそれを壁にペタペタはって構成を検討したりします。想田さんはいかがですか? 想田:やります。あれは便利ですよね。でもNHKの番組をやっている時は大嫌いだったんです。なぜかというと、自分が作った編集を勝手に変えられちゃうから(笑)。 Q:プロデューサーにやられてしまうんですよね。 想田:もう自由自在に変えられちゃう。僕は、自分の映画を作る時にはあの付箋ペタペタは絶対やるまいと思っていた。でも、『選挙』(07)という最初の映画を編集している時に、すごく行き詰まっちゃって。悔しいけどペタペタをやってみたら、すごくよかった(笑)。自分に決定権があると、とても便利でした。 Q:人に付箋を動かされるのでは嫌ですよね。 想田:本当に嫌だった(笑)。でも自分で動かす分にはすごく重宝して今回もやりました。 Q:最新作は今までの想田作品の中でもすごく強固な構造がある作品だと感じました。 想田:そうですね、おっしゃる通り、今までの作品に比べてかなり構築されている映画です。 Q:今までと比べても全体にカットが短い傾向にあるように思えました。 想田:そうかな・・・? Q:想田作品では要所に長回しがあります。『牡蠣工場』(15)では牡蠣を水揚げするシーンを延々とみせるけど、不思議と飽きずに見られてしまう。今作ではそうした長回しがなく、いつもよりカットを割っている印象です。 想田:「このショットはこの長さが適切」というのが、撮れたものによって決まってくるところがあります。時には4分も5分も長回しで見せた方が良いショットがあるのですが、確かにそれは今回なかったかもしれません。でも風景のショットは、いつもよりも長めだと思います。それでも何分も続くわけではなく、それぞれ10秒程度。
撮れた要素は自然と入る場所が決まる
Q:編集していった時に、「こういう映像が欲しい」となることもあると思います。観察映画のルールでは追加撮影はNGですか? 想田:結果的に追加撮影のようになることはありますよ。たとえば今回の作品では一番最後の方に配置された映像は本当に最後の方で起きたことです。猫が亡くなって、そのお葬式をやり、そのあとで子猫が捨てられていた。これは本当にもう映画の編集がほぼ出来上がってきた頃に起きたことなんで、もうその時点では映画全体の構造はできあがっていたんですが、その構造の中に自然に素材がはまっていったんですよね。 Q:あの出来事はそんなタイミングで起きたんですね。 想田:はい。とはいえ、そんな映像が「欲しい」とは思っていなかったです。虎ちゃんという猫が亡くなった時も、死んだことがすごくショックで「埋めてあげないと」と思い、最初現場にはカメラなしで行ったんです。でもやっぱり撮らないとダメだよなと。ただみなさんが悲しんでいるのにカメラを回すのは、土足で踏み込むような感覚があるから迷いました。でも「猫は死ぬんだ」という現実を撮っておかないと、と思いました。すると構成的に入る場所というのは、自然と決まってくるわけです。
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