彬子女王殿下に、日本美術コレクターのジョー・プライス氏が伝えた「日本人が忘れてはならないこと」
世界広しといえども――「ちょっと誇れる私の小さな自慢」
日本美術や作品について語らせると止まらないジョーさんだが、お茶目な一面もある。 あるとき「ジョーさんは料理ができるのか」という話になった。「ほとんどしないけれど、昔はよく娘のためにパンケーキを日曜日にはつくってあげていた」というジョーさん。 パンケーキを焼いているジョー・プライス。なかなかイメージが難しい。「ジョーさんのパンケーキ食べてみたーい」とせがむと、なんと翌朝につくってくださるとのこと。 そして翌朝。側衛とご自宅にうかがう。そこには、エプロンをしたジョーさんがパンケーキミックスの入ったボウルを左手、お玉を右手に、真剣な表情でフライパンと対峙している。後ろでフキンを握りしめながら心配そうに見守る〈奥さまの〉エツコさん〈2023年8月逝去〉。なんだか私もドキドキハラハラ。 「ジョーさん、ほんとうに大丈夫?」そんな言葉を心のなかでつぶやく私をよそに、ジョーさんはパンケーキを焼きはじめる。すごく小さな丸いパンケーキをつくり、そして、大きなパンケーキをつくる。どうやら不器用だからそうなっているわけではなさそうである。 しばらくみていると、大小のパンケーキが合体して、なんとディズニーランドでみたあの世界一有名なネズミ君になったのである。その昔、お嬢さんたちにつくってあげたのと同じものだそうだ。ちょっといびつだけれど、チャーミングなそのネズミは、ジョーさんの気持ちがこもっていて、なんだかちょっと懐かしい味がした。 世界広しといえども、ジョー・プライスの手料理を食べたのは、ご家族を除いては私だけだろうと自負している。世の日本美術史研究者たちに、ちょっと誇れる私の小さな自慢なのである。 〔追記〕2013年3月から9月まで、東北3県でプライス・コレクションの「若冲が来てくれました」展が開催された。被災された方たちのお気持ちを美しい日本美術で慰めたいというご夫妻の思いに端を発するものである。お二人の日本への愛にあらためて敬意を表したい。
彬子女王