ラップ理論の第一人者・上田琢巳さんが死去 83歳 「西の仕掛人」「机上に勝算あり」で数々の大レースを的中
東京スポーツ競馬面において、「西の仕掛人」「机上に勝算あり」などのコラムで知られた上田琢巳さんが6日、死去した。83歳。葬儀は家族葬で執り行う。 競馬専門紙を経て、平成元年に東京スポーツに入社。誰よりも早く、競馬におけるラップの重要性を説き、数字からレースの本質を見抜き、競馬予想に革命を起こした。“ラップ予想のパイオニア”と呼ばれ、その独自の理論は、多くの後進たちにも影響を与えた。コラム「西の仕掛人」「机上に勝算あり」では数々のビッグレースを的中させ、東京スポーツの顔として長く活躍した。
「ラップはその行間を感じること」
「マネジャー!」 「おー、成駿」 20年近く前、大阪で名物競馬予想会があった。マネジャー・上田琢巳さんと盟友・清水成駿氏のイベントには毎週100人近くのファンが集まった。酒豪の2人は開始前からビールにバーボン、そして日本酒。ベロベロに酔っぱらって登壇すると「ダイワメジャーはダメじゃー」とおっさんギャグを連発。直後にマジな顔で「キングカメハメハを買わないヤツはバカだ」と怒鳴り散らした。笑いとマジな予想と酒が交じったカオスな会だった。 イベントが終わるとなじみの北新地のスナックへ。ここで上田さんが十八番の「ベサメムーチョ」を歌う。過去一度も海外へ行ったことがないのに、流ちょうなスペイン語。これで何人も口説き落とした。その歌声にライバル心を燃やした成駿氏がジュリーの「時の過ぎゆくままに」。こちらは胸にまで響く重低音で官能させた。情熱と、色香を含んだ漢の戦いだった。 今や常識となったレースラップ理論。それを競馬紙面で初めて筆にしたのが上田さんだった。そんな上田さんが生前語っていたのは「ラップは数字を読み取るのではなく、その行間を感じること」。ラップ理論の第一人者は数字に頼る予想家ではなく、世を詠む詩人のようだった。人の気持ちや機微をいつも捉えていた。 「世の中は数字じゃないんだ。機微なんだよ」 営業成績やビジネス戦略、レーティングやAI…過剰に数値化される現在に上田さんは何を思っていたのだろうか。マネジャー・上田さんと盟友・成駿氏の歌を、また酒を飲みながら聞きたい。(編集局長・河合成和)