古今東西 かしゆか商店【漆椀】
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回訪ねたのは岡山県井原市。貴重な木を丸太から仕入れ、木地作りから漆塗りまでを手がける職人と出会いました。 【フォトギャラリーを見る】 宝石のように奥深い艶と、両手に優しく寄り添う形。普段使いできるシンプルな漆椀を見つけました。 親子丼や軽めのラーメンによさそうな大きさで、手に取るとすっとなじむ。重さを感じないほど軽く、手も熱くなりません。漆というと構えてしまいがちですが、なんだか“ふつう”で気持ちいい。
作り手は岡山県井原市の木地師・仁城逸景さん。本来、漆の仕事は木地作りと塗りの分業制ですが、仁城さんは丸太の仕入れから製材や成形や塗りまで、すべてを手がけています。これは漆界のレジェンドでもあるお父様、仁城義勝さんから継いだスタイルです。
まずは製材して5年以上自然乾燥させた木を、木工ろくろで成形する工程を見学。ろくろに木を留めて回転させ、鉤爪の刃物を当てて削ります。削り始めたら一度も止めず、回転速度も変えないまま。 「製材所で乾燥させた材料を買って作る方が、効率は断然いい。でも、最初から最後まで責任を持って木と関わることで、貴重な木を無駄なく使いきりたいんです」
次に見せてもらったのは、木地に漆を塗る工程。仁城さんの漆器は、よく見る朱赤や黒ではなく深い飴色。木から採れた漆を透明なまま塗り重ねる「溜塗り」によるものです。刷毛でサッとひと塗りしたり、塗り重ねたり。木には漆が染み込みやすい部分と、そうではない部分があるので、その都度、塗り方を変えているのだとか。場所によって木目の出方が違うところが、本当にきれいなんです。
「塗って乾かして砥ぐ、という工程を4回繰り返すだけのシンプルで原始的な方法です。最後の仕上げも、磨きを施さずに乾かしたまま完成させる “塗り立て” 。父や僕にとって大切なのは木。木を保護し、木の表情を残すために最小限の漆を塗る……という感覚です」 興味深かったのは、農業のような1年ごとのサイクルで漆器を作っているという話。