「祭りがしたい」液状化被害の街で立ち上がった青年 進まない復興、抱える不安拭えず
専門家「見たことがない」 被害拡大の原因は…
「ここまで地盤が変状するのかと、こんな場所は初めて」 地盤工学の専門家で金沢大学の小林俊一教授は現場を見てそうつぶやいた。 砂丘地の上に造成された内灘町は、主に「砂」が地表付近の地盤を構成し、揺れに弱い。元日の地震では砂と地下水が混ざり合い液状化現象が発生した。さらに、西荒屋地区では想定外の現象が起きたという。地盤がずれ動く現象「側方流動」が発生し甚大な被害につながったと指摘する。全国各地で液状化被害による被災地を見てきた小林教授でも、具体的な復旧方法は見当もつかないという。
開催された祭り 住民の心動かした言葉
11月、西荒屋地区の公民館には小学生から中学生までの子どもたち、そして橋本さんの姿があった。地区の復興委員会で橋本さんが提案した秋の祭礼。その開催が決まった。当初ほかの住民から反対の声も上がるなど開催が危ぶまれていたが、議論を重ねる中で橋本さんの一言が住民たちの心を動かした。 「集まるきっかけになると思うから」 言葉通り、祭りの練習が始まると友達と離れ離れになった子どもらは久々の再会に笑顔を見せていた。そして祭りを経験したことのある上の子たちから下の子たちへ、太鼓や笛の吹き方が教え、伝えられていく。こうして170年にわたる長い歴史が紡がれてきたのだ。 迎えた祭り当日。今年も西荒屋に祭りの季節がやってきた。祭りには100人を超える住民が集まり町は活気に満ちていた。町中に響き渡る囃子の音、それに合わせ、獅子舞と対峙する子どもらは木刀で演舞を披露する。祭りは徐々に熱気を帯び始め橋本さんも子供たちに交じって演武を披露する。住民からは温かい拍手が送られ、橋本さんは子供たちに囲まれ笑顔をのぞかせる。 「大人も子どももみんな楽しそうにしていたし、西荒屋に戻ってくるひとつのきっかけになると思う」 この街を離れないで、忘れないでほしい。そんな願いの元、今年も祭りは次の世代へと受け継がれていった。 しかし、祭りを終えた橋本さんに笑顔は見られなかった。ふと街を見渡すと斜めに傾いた建物や道路が未だ手つかずの状態だったからだ。