介護は“オイシイ商売”なのか?「老人は歩くダイヤモンド」高齢者を囲い込み利益を上げる経営者がいる一方で、真面目な事業者が“損をする”介護ビジネスの現実とは…
“真面目な事業者は儲からない”現状
高級マンションのような老健を見学しながら、坂本さんにこう切り出した。 「介護ビジネスって、やっぱり儲かるんですか?」 すると彼は手を左右に振りながら、「全然儲かりませんよ」と笑った。ただし、それは「真面目に介護事業を運営した場合の話」だと付け加え、こう続けた。 「介護保険の中で要介護者が使えるお金は決まっています。『要介護5』なら月額いくらまでと、要介護度にあわせて上限が決められているため、介護事業者からみたら、儲けようと思っても売上額を制限されているようなものです。 それに、うちの例でいうと人件費が総売上の70%を占めています。ここ数年、ガソリンや食材費の高騰で、さらに利益を圧迫していますから、商売として考えるなら、儲かる業種ではありません」 彼の説明によれば、例えばデイサービスのような規模が小さな施設ほど、売上に占める人件費の比率は高くなる傾向にあるという。 しかし、前述した通り、老人を「歩くダイヤモンド」などと呼ぶ業者もいる。そこで、坂本さんに、「仮に介護で大儲けするためには、どうすればいいのか」と質問してみた。 「施設に金をかけず、人件費を極端に減らせば儲けは出ます。たとえば、利用者3名に対して常勤の介護職員または看護師が最低1人いなければならないなどと厚労省が定めた人員配置の基準があります。 ところが、きちんと介護をしようと思うと、厚労省が決めた最低必要人数では全然手がまわらないのが実情です。人員を基準以下にし、老朽化した建物や設備をそのままにして利益を出している施設もあると言えるでしょう。 ちなみにうちは、厚労省が定めた最低人数よりも人を増員して対応しています。しかし悪質な施設の中には、清掃員として雇った人を書類上、介護スタッフとして数え、人数の帳尻を合わせているところもある。行政がスタッフ1人ずつと面談して職務内容を確認するわけではないので、バレないのです」 坂本さんの話からは、介護制度の枠組みと、事業運営の現実の間に大きなギャップがあることがわかる。質の高い介護を提供しつつ、経済的に持続可能な事業運営を行うことが困難であるなら、現行制度の見直しが必要ではないのか。 文/甚野博則 写真/PhotoAC
---------- 甚野博則(じんの ひろのり) 1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から「週刊文春」記者に。「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして、週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。本書が初の単書となる。介護に関する情報提供はぜひ(hironori jinno2@gmail.com)までお寄せください。 ----------
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