介護は“オイシイ商売”なのか?「老人は歩くダイヤモンド」高齢者を囲い込み利益を上げる経営者がいる一方で、真面目な事業者が“損をする”介護ビジネスの現実とは…
実録ルポ 介護の裏 ♯1
少子高齢化が進む日本で、多くの人が直面する「介護問題」。近年、異業種からの参入も相次ぐ介護業界は、市場規模は拡大を続ける一方で、毎年多くの事業者が倒産・撤退している。果たして介護ビジネスは儲かるのか? コンビニ業界の市場規模は10兆円、家電・小売業界は9兆5,000億円。では2025年の介護保険の給付費は… 『実録ルポ 介護の裏』(文春新書)より、一部抜粋、再構成して、複雑すぎる介護保険制度や人材・財源不足により引き起こされる、介護業界の“闇”に迫る。
新規参入しやすい介護市場
介護保険の給付費が2025年には21兆円へ。コンビニ業界の市場規模は10兆円、家電・小売業界は9兆5,000億円だから、それだけ介護は魅力的なビジネスになる─。 これは、ある介護事業者の起業説明会で用いられる営業トークの一つだ。同社は、小規模なデイサービスを全国に展開するフランチャイズ事業を手掛けている。民家を改装して介護スタッフを雇い、お年寄りに日中、そこで過ごしてもらうという事業だ。筆者が手に入れた同社のパンフレットには、こんな記載がある 。 〈月間利益は約80万円です。1日平均9.5人の利用者様を確保した場合、月額約100万円の収益も可能です〉 この金額が魅力的かどうかは別として、そんな謳い文句で、脱サラした個人事業主や中小企業の経営者などに、フランチャイズへの加盟を促している。 介護業界への参入は比較的簡単だといわれる。デイサービスや訪問介護、介護用の宅配弁当など、介護の資格や経験がなくとも、個人で起業できる業種はいくつもある。 また、大手飲食会社や、大手警備会社など、大企業が介護事業に参入していることは有名だ。ワタミも介護付き有料老人ホームに参入したことがあるが(後に撤退)、こうした大企業だけでなく、パチンコ会社から魚の仲卸し業者まで、あらゆる異業種が介護業界への参入と撤退を繰り返している。
介護ビジネスは“オイシイ”商売か
「老人は歩くダイヤモンド」 2022年の夏、ある広告会社の社長が私に、そう話したことがある。東北地方で介護施設を手掛けている知人が、老人相手のビジネスは儲かると語り、老人をダイヤモンドと表現していたそうだ。 この介護事業者の本業は不動産業で、多角化経営の一環として小規模のデイサービスを数店舗経営しているという。今後も事業を拡大していく予定だと嬉しそうに語っていたというのだ。 「介護ビジネスは、入金元が自治体や都道府県の国保連(国民健康保険団体連合会)だから、民間対民間で行う商取引に比べて、確実に収入を得ることができる〝オイシイ商売〟。 しかも他の介護関連業者と組んで、住居から食事、それに医療まで、高齢者の生活を丸ごと囲い込める。小さな石ころが大きな価値を生むから、まさにダイヤモンドみたいだというわけ」(広告会社社長) まるで高齢者を食い物にするような例えだが、介護業界には、こうした経営者が一定数いるのも事実だ。 介護保険の給付費は年々増加傾向にある。厚労省の「介護保険事業状況報告」などをみても、2020年度の給付費は10兆円を超えており、前年度と比較し2.7%増えた。 そして介護業界は主に、営利企業や医療法人、社福(社会福祉法人)によって支えられている。 厚労省がまとめた「開設(経営)主体別事業所数の構成割合(詳細票)」(平成29年10月1日現在)によれば、訪問介護事業者の約66%は、営利企業が運営している。 福祉用具の貸与や販売の事業に関わる者の90%以上が営利企業だ。特養と呼ばれる介護老人福祉施設は、約95%が社福の経営。公益性の高さから、社会福祉法において、原則的に国と地方公共団体又は社福が経営すると決められているからだ。 老健(介護老人保健施設)は、医学的管理の下における介護やリハビリを行うという性質から、75%が「医療法人」の経営である。 また、介護の問題に直面したとき、最初に相談する地域の包括は全国に5351か所(令和3年4月末現在)あるが、このうち市町村が運営しているのは20.5%に過ぎない。それ以外は「委託」という形で民間事業者などに運営を委ねているのだ。