水と空気からパンと電気を作る? アンモニアの新合成法は時代を変えるか
ハーバー・ボッシュ法は100年もの利用実績がある完成度の高い生成法ですが、欠点がゼロというわけではありません(表1)。 ハーバー・ボッシュ法では、水素ガスは石油や石炭などの化石燃料を由来とし、加熱や加圧をするための発電で発生する二酸化炭素による地球温暖化に直結しているだけでなく、いずれは化石燃料の枯渇をもたらします。
「水と空気」からアンモニアを作る
私たちは生きるために何かを食べているだけで、地球温暖化や化石燃料の枯渇を進めているわけです。その問題は回避したくても、どうしようもないように思えます。しかし、研究者たちはどうにもできないような課題にこそ、好んで手を付けるのです。 では、どこに解決の糸口があるのでしょうか。
表2を見てみると、化石燃料を使わず、かつ常温・常圧の状態でアンモニアを生成できる方法が見つかれば良さそうだということです(表2)。なんとかなる気がしてきましたね。 そして、本当になんとかできるかもしれない方法を今回発見したのが、西林教授が率いる東京大学の研究グループです。西林教授のグループは、水素ガスを「水」から手に入れ、「常温常圧」でアンモニアを作る方法を発見しました。水とは水道水などの水のことであり、もちろん化石燃料ではありません。水は分子式でH2O(H = 水素、O = 酸素)と言い換えられるように、水素が含まれています。 化学者にとって、水素が水というありふれたものに含まれていることは常識ですが、「水から水素を切り離しながらアンモニアを合成するのは困難」ということもまた常識でした。水には水素だけでなく酸素も含まれていますが、酸素はアンモニアを作る際に触媒を劣化させるものとして非常に厄介だからです。 ハーバー・ボッシュ法において、アンモニアは鉄を主とした触媒を利用して作られます。触媒とは、化学反応を促進しつつ自分自身は変化しないもののことです。そして触媒の劣化とは、触媒の機能が失われることです。酸素は触媒を激しく劣化させます。西林教授のグループは「モリブデン」という金属を使った触媒をすでに開発していますが、やはり酸素によって劣化してしまいます。