水と空気からパンと電気を作る? アンモニアの新合成法は時代を変えるか
しかし今回、西林教授のグループは触媒の劣化を進行させずに水からアンモニアを作る方法を発見したのです(図1)。それにはサマリウムという金属を利用します。「ヨウ化サマリウム」という試薬を用いることで、水から水素を取り出しつつ、モリブデン触媒の劣化が抑えられることを見つけ出しました。 ヨウ化サマリウムを使うことで、アンモニア合成に水が利用できることを実証したことこそが、今回の研究の最大の焦点でしょう。 サマリウムが「酸素と強く結びつく」という性質を効果的に利用できることを発見し、「水は使いにくい」という常識を打ち破ったのです。
それだけではなく、西林教授のグループが発見したモリブデン触媒とヨウ化サマリウムを利用した今回の方法は、生成効率も非常に優れています。具体的には、温度や圧力を加えなくても、アンモニアの合成速度はハーバー・ボッシュ法に匹敵し(西林教授グループの過去の報告の100倍)、触媒1分子からアンモニア分子を4000以上作ることができます(同10倍以上)。西林教授は、触媒1分子からアンモニアを合成できる量はまだ上限が見えていないと語っており、この触媒系の底無しの力強さがうかがえます。 詳しい反応のしくみを図にしましたので興味のある方は是非ご覧ください(図2)。
アンモニアをより身近な場所で作る
今後の研究について西林教授は、今回のアンモニア合成方法の改良と実用化を目指した共同研究を進めると語りました。 モリブデン触媒そのものを改良し、ヨウ化サマリウムの使用量が少なくても生成でき、そして実用化していくことについては、日産化学株式会社と共同研究を進めています。特に、今回の発見した合成法はハーバー・ボッシュ法のような大がかりな施設(工場のプラント)が必要ないことから、西林教授はアンモニアが使われるその現場で合成を可能にする研究を進めたいと語っていたのが印象的でした(写真2)。 アンモニアは植物の肥料になるだけではなく、直接燃焼させて火力発電に使用したり燃料電池に利用したりできます。「アンモニアが使われるその現場」というのは、具体的には、自動車や各家庭などの生活の場所で発電に利用できるアンモニアを合成するというイメージです。 西林教授のグループの成果は、さながら「水と空気からパンと電気を作る」方法といえるでしょう。