岸井ゆきのにインタビュー、『若き見知らぬ者たち』で感じた役者人生初の体験とは
日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞からの心境の変化
──『ケイコ 目を澄ませて』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した直後は「プレッシャーになる」とおっしゃっていました。そこから1年半が経ち、心境の変化はありましたか? 今はもう落ち着きました。当時はたくさんの人に「おめでとう」と言っていただいて、「大変なことになって、私はこれからどうしていけばいいんだろう」と思っていたんですが、作品一つひとつに向き合うこと自体に何も変化はありませんし、あくまでも『ケイコ 目を済ませて』という作品に対する評価だったと思うので、これからもただただ映画作りに没頭するのみだという気持ちになっています。でもバッチのようなものをもらえたことはすごく感謝していますし、勇気になっています。 ──お仕事に向き合う気持ちにも特に変化はありませんでしたか? 元々映画が好きで、映画制作に携わりたいと思ってこの世界に入ったので、濃度が変わることはなく、やっぱり『ケイコ~』っていい映画だよねっていうところに回帰していきます。先日山口に行った際、『ケイコ~』の上映があって映画館で観たのですが、「やっぱり良い映画だな!」って思いました。自分がどうというより、やっぱり作品が良い。この作品が周知されていくことが嬉しくて、自分は何も変わっていないなと改めて感じました。ただ映画が好きで映画に関わりたいという根本が変わらない限りは同じ熱量でやっていけると思っています。 ──プライベートでもよく映画を見るそうですが、最近心が動かされた映画というと? 最近「くーっ!」と思ったのはルカ・グァダニーノの『チャレンジャーズ』です。テニスシーンばかりなのにすべての画が違うんです。道路の隅の壁際で喋っているシーンがあって「どんな狭い路地裏で撮影しているんだろう」と思って見ていたら、引きになって大通りだったところが超ツボでした。本当に面白かったです。 ──やはり作り手の目線が入ってくるんですね。 そうですね。物語自体面白かったのですが、それ以外のところでも映画はこんなに楽しませてくれるんだと再認識しました。撮影現場の映像が公開されていたんですが、「この短いショットのためだけに透明なテニスコートを作ったんだ?」と驚いたり。そういう作品に出会うと、「やっぱり映画っていいな」って思います。