石川県の町工場「職人が教えない職場」から大激変、「若手自ら考え仕事する」仕掛け
少量・多品種生産のノウハウ継承の課題を解決する方法
この点、LIGHTzでは、ベテランのノウハウを「視点」「知識」の2軸で分解。汎知化によって、同じ業務カテゴリーで共通利用できるノウハウや視点をまず可視化する。これにより、上述したノウハウのバリエーションの多さに対応していく。 ある企業の技術継承の支援事例では「約5000品番にわたる生産ノウハウを汎知化した結果、約30パターンにまで集約ができた」という。 また、大手繊維メーカーの技術継承のケースでは、SDGsの達成に向け、染色工程の効率化が課題となっていた。特に、染色工程のレシピの作成がベテランに依存しており、レシピ作成ノウハウが高度化していた。レシピ修正回数は、ベテラン作業員と若手との間で大きな差が生じていたという。 そこで、LIGHTzの汎知化とシステム化を適用することで、「若手も徐々にベテランに近づく修正回数のレベルに達し、人による生産性のバラツキが少なくなったことで生産性向上を実現することができた」そうだ。 染色レシピは色を目で見て、五感に頼ったものである特性から、判断基準が定性化しやすく、汎知化しても若手に伝わりにくい。そこで、LIGHTzでは判断基準を新たな定量的な指標に置き換えることで若手にも伝えやすいようにした。 雲宝氏は今後について、「人とソフトウェアがともに進化する技術継承DXをめざし、AI開発を進めている」とした。汎知化と生成AIを組み合わせることで、エンジニアの思考を支援する仕組みを開発している。 雲宝氏は「我々はモノづくりのコア業務を担うエンジニアが深い技術相談ができるAIエンジニアをめざしている」とし、「社内データだけでなく暗黙知データを組み合わせ、暗黙知の形式知化していく領域に生成AIが果たす役割は大きいと考えている」と締めくくった。
石川県町工場の課題、若手に熟練が「教えない」本当の理由
続いて、職人の技術継承の取り組みを紹介するのが石川県白山市の旭ウエルテックだ。同社について、代表取締役社長の山田 裕樹氏は「受託製造専門の町工場で、職人の技術を生かした工作機械などの溶接構造物の製造が主要事業だ」と説明する。 同社は、取引先の拡大や売上拡大、社員数の増加に対応するため、自社専用システム「AWDS」を9年前から自社開発。同システムは顧客管理、受発注管理、不具合情報管理、など、多岐にわたる機能を備えた独自システムだ。 同社が手がける溶接構造物は、産業工作機械などに強みを持ち、案件数は年間で約9000、数量で約2万個を製作している。「社内一貫生産体制のもと、1種類、1個の製品が多いのが特徴だ」と山田氏は述べる。 そのため、多くの技術、ノウハウを持つ職人の存在が不可欠で、2020年以降、職人を積極採用し、職人の平均年齢は38歳、20代~40代が全体の80%以上を占める。さらに、急増した若手社員の早期技術力向上のため、石川県の職員派遣制度なども積極的に活用している。 山田氏は「若手に基礎を学ぶ一定の体制はできたものの、技術継承には課題もある」と話す。それは「職人が教えない」問題だ。山田氏はその原因を「若手が難しいと思うことも、職人にとっては当たり前のことで、わざわざ教えるまでのものでもないとの意識を持っていた」ことにあるとする。 しかし、製造に重要な技術は職人のノートにびっしりと書き込まれており、個人の机の中に収蔵されている。すなわち「ノウハウ、技術が個人に依存し社内に共有されていなかった」現状があったのだ。 なぜ若手の育成に時間が取れないのか。山田氏は「1品ものの製造が多いというビジネス特性が育成のネックになっていた」とする。生産量や材料、生産工程は毎回異なり、限られた納期の中で計画を立てるのに、職人の多大な時間が取られ、「自分の仕事で手一杯のため、若手に教える余裕がない」というのが課題だったのだ。