ミドルエイジ・クライシス(中年の危機)を乗り越える「大人の自分探し」
矛盾と向き合い、物語の再構築へ
4.社会的ミッション探究期:人生の意味を見つめ、真の自己実現を果たす ミドルエイジに「自分」に向いていた探究テーマを「社会」に向けて、次世代に向けて何を還元・継承できるだろうかと、ミッションを探っていく。 以上のように、キャリアフェーズによって探究テーマのレイヤーを変えていくことが、好奇心を生かして探究的に生きるコツである。 ■矛盾と向き合い、物語の再構築へ ミドルエイジ・クライシスの処方箋とは、ずばり、自分のケイパビリティを磨くことから、自分のアイデンティティの再定義に関心を向け直すことである。アイデンティティ探究期のポイントは、自分のなかにある「矛盾」や「中途半端さ」を前向きな「物語」として編み直し、「連続的な一貫性」を再構築することである。 ミドルエイジ・クライシスとは、自己矛盾に悩むことである。「手を動かしてデザインしたい自分」と「他人のデザインを指導しなければいけない自分」を折り合いのつかない「矛盾」としてとらえたままだと、確かに嫌気が差してくる。しかしここは発想を変えて、「物語」に編み直すために、探究の問いを設定しよう。「私はデザインを通して、何を得てきたのか。それは今、どのように生きるのか?」「元デザイナーの自分が、マネジャーの立場だからこそデザインできるものは何か?」といった具合に。 40歳を目前にした私自身、このようにしてアイデンティティ探究を楽しんでいる。私は20代のころは大学院で集団の創造性を発揮するワークショップデザインの方法を探究していた。2013年、28歳で『ワークショップデザイン論』という本を出版、15年には博士号を取得。大学で研究者をしながら、ファシリテーターとしてワークショップに明け暮れていた。ところが17年にワークショップデザインの専門会社を起業すると、事業が拡大。子どもが生まれて仕事に割ける時間も減って、経営に専念せざるをえなくなった。気づくとワークショップの専門性だけが取り柄だったのに、ワークショップをやる機会がなくなってしまった。しかも「博士号をもった研究者」だったのが、「経営の初心者」になっていて、30代半ばにして、ゲームが完全にリセットされた感覚だった。 安斎勇樹(あんざい・ゆうき)◎MIMIGURI 代表取締役CoCEO。東京大学大学院 情報学環 客員研究員。1985年生まれ。武蔵高校、東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。著書に『問いのデザイン』『問いかけの作法』『パラドックス思考』『リサーチ・ドリブン・イノベーション』『ワークショップデザイン論』などがある。
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