ミドルエイジ・クライシス(中年の危機)を乗り越える「大人の自分探し」
危機脱出のための「探究」型キャリアデザイン
■危機脱出のための「探究」型キャリアデザイン 「探究」とは、自分の好奇心・関心に基づく「探究テーマ(問い)」を設定して、仮説を立てながら、情報を集めたり、実験をしたりしながら物事の本質について明らかにしていく営みである。近年では学校教育でも重視され、高校では「探究」の時間が必修となっている。 私は、不確実な現代社会において、「探究」こそがキャリア形成の鍵になると考えている。 これまでのキャリアデザインといえば、いわゆる「X年後の目標」を定義して、自分の限られたリソースを「選択と集中」で戦略的に投資して、自分をなりたい姿に計画的に近づけていく方法が主流だった。 しかし不確実で変化の激しい現代、もはや3年後の目標を設定することすら「無理ゲー」に近い。私自身、ベンチャー企業の経営者として「中期経営ロードマップ」などをそれらしく語ることはあるが、自分自身が数年後にどんな人材になっていて、何に面白がっていて、何に悩んでいるのかなど、まったく想像がついていない。 であれば、私たちがとるべきスタンスは、未来から逆算する合理的思考を捨てて、“今ここ”にある好奇心に基づいて、探究的に生きていくことではないか。その手立てとして、私は「今関心があること」を「探究テーマ」として掲げて、キャリアの指針にする生き方を推奨している。探究が進んだら定期的に「振り返り」をして、探究テーマを更新・修正していく。そんなふうに“今ここ”の関心を育てながら、気づいたら豊かなキャリアが積み重なっていた。そんな「野生」を取り戻すべきではないだろうか。 私はいま音声プラットフォーム「Voicy」のチャンネル「安斎勇樹の冒険のヒント」で探究の方法論を日々発信しているが、その過程で見えてきた試論を「探究型のキャリアステージ」として以下のようにまとめている。 1.パーソナリティ形成期:探究の基礎となる個性を形成する 幼少期から思春期くらいまでの期間に相当し、さまざまな経験や周囲の人たちとのコミュニケーションを通じて、自分の個性や資質を自覚していく。他者からの拒絶や挫折の経験からコンプレックスを形成する場合があるが、それも含めて探究の基礎となる。 2.ケイパビリティ探究期:個性を生かして得意技を確立する 社会に出て仕事や役割をもつと、職能的なケイパビリティ(得意技)を磨き、価値を発揮することが求められる。この時期を探究的に過ごすためには、仕事を退屈な作業、苦しいトレーニングとしてとらえずに、自分らしい「探究テーマ」を設定することだ。例えば営業の仕事だったら、「顧客と仲間になるには?」「自分らしいやわらかな営業スタイルとは?」といった問いをもつことで、日々の仕事はグッと探究的になる。この探究テーマが、自分のパーソナリティ形成期の個性を生かしたものだと、より自分のポテンシャルを生かしやすくなる。 3.アイデンティティ探究期:自己矛盾に向き合い「自分」を再構築する 若い頃のように職能的なケイパビリティのみに純粋な好奇心を向けられなくなってくるのが、ミドルエイジである。しかしこれは探究のステージとしては自然なことで、考え方を変えれば、好奇心を「技」ではなく「自分」に向けるべきタイミングであるともいえる。もちろんミドルエイジ以降も人生は長い。ケイパビリティの探究はやめずに、次々に新しい「技」を磨いていくことが望ましい。それでも、アイデンティティがバラバラにならないように、「自分らしさ」を再定義することに好奇心を向けることが、このステージの探究を乗りこなすコツだ。