女性の地位向上、カギは政治主導のクオータ制 ~田原総一朗さんに聞くー外科医不足問題~【現代社会にメス~外科医が識者に問う】
◇外科医を志しても二の足
田原 使命感ややりがいだけでは済まされないほどの激務ということ? 河野 19年時点で、病院常勤勤務医の約4割が過労死ラインである年960時間超の時間外・休日労働を行うなど、わが国の医療は医師の長時間労働によって支えられてきました。特に外科は医師全体の中でも最も労働環境が厳しいと言われており、「主治医は全ての責任を負い、24時間365日対応すべきである」という倫理観の下、土日もスタッフ全員で回診することも日常でした。 18年9月に開催された「第9回医師の働き方改革に関する検討会」で、日本外科学会は20~30代の外科医の約4割が年間3000時間超の時間外労働を行っていることを報告しています。これらは日進月歩の医療技術、より質の高い医療やきめ細やかな患者に対するニーズに応え続けてきた結果ですが、自身の時間を確保したり、子育てとの両立となると相当難しいですよね。 私が卒業した01年は医学部卒業と同時に専攻する科で働くという環境でしたが、04年から新臨床制度が始まり、2年間いろいろな科を回ることになりました。初期研修の2年で、過剰な労働量、治療上の責任が重い、訴訟のリスクが高い、徒弟制度が根強いなどの外科の現場の厳しさを目の当たりにしたら、いくら素晴らしい職業であっても二の足を踏むのは理解できます。
◇外科医の報酬は適正か
田原 労働環境や待遇を改善すれば外科医は確保できる? 河野 そう思います。外科医ですと、手術はもちろんのこと、術前検査、手術説明、摘出標本整理、術後管理、外来、化学療法、緩和医療、診断書や介護保険、生命保険などの書類作成、院内の委員会や勉強会の担当など非常に多くのものを担っています。さらに昔と比較すると、外科医が不足していることに加え、手術の低侵襲化に伴う手術時間の延長、高齢者の手術件数増加があります。高齢者はさまざまな併存疾患を有しており、周術期の管理も大変になっています。ですから労働時間の上限規制の話だけではなく、本質的な議論である、いかに1人当たりの仕事量を減らすかということを考えなければなりません。 給与の問題も重要です。どの科も大切な科だとは思いますが、自身が行う手術が生命に直結し、夜間に緊急手術を行ったり、重症を担当したらなかなか家に帰れなかったりする外科医と、一方で定時に帰れてすぐには生命に直結しない患者を担当している医師との給与に大差ないというのは見直す必要があると思います。