「君には、ついていけない」...認知症の人とその家族が苦しむ「辛すぎるすれ違い」とその「驚きの解決法」
認知症が引き起こす意外な失敗
お手洗いの失敗も起こるようになりました。 ある講演の帰り、ふと気づくと、彼のズボンの前がぐっしょりと濡れていたこともあります。 最初に尿意を感じてから我慢できなくなるまでには、相応の時間があるものでしょう。ところが晋は、どうも尿意を感じにくくなっているようでした。気づいたときには「出る直前」になっている――そんな感じらしいのです。 「わからない」 本人にそう言われたこともあります。家の中にいても、なかなかトイレにたどりつけなくなっていました。 うまくできなかったとき、彼はいつも、申し訳なさそうに立ち尽くしていました。 寒い時期に失敗が続くと、風邪をひくかもしれない。そう考えた私は、思い切って彼に紙パンツをすすめます。 拒否されるものとばかり思っていたのですが、むしろ喜んで、素直にはいていたのでこちらが驚いてしまいました。 〈もう失敗しなくてすむ〉 そんな安心感があったのでしょうか。
認知症の家族会で学んだ「ダメ三原則」
生活上の不便がふえてきたので、私たちは2010年1月、介護保険を申請しました。晋63歳のときです。 介護保険制度自体は2000年からありました。そう考えると、ずいぶん後になってから申請したことになります。この時期に申請したのには、次のような背景がありました。 少し話が前後しますが、実は沖縄から栃木に戻ってすぐのころ、私たちは認知症の「家族会」と呼ばれるものに出席したことがありました。 家族会とは、認知症となった本人やその家族が集まって、情報交換や悩み相談などをする場のことです。 認知症について私は、本で読んだ知識しか持ち合わせていませんでした。同じような立場にいる人は、どうしているのだろう。直接言葉を交わしてみたい……そう思って晋とともに出席してみたのです。 その家族会の場で、介護保険制度については教えてもらったのですが、聞き流してしまいました。ですがその後、次女から、 「きっと何か公的支援があるはず」 とうながされ、使えるサービスがないかあらためて調べたのです。それが申請につながりました。 要介護認定の結果、晋は「要支援1」。私たちはさっそく制度を利用して、自宅の玄関や、2階にあがる階段に手すりをつけてもらいました。