吉川真司・女子ナショナルヘッドコーチ「日本女子は何年かの間にいい時代が来る」。大坂なおみは「お母さんになって懐が深くなった」【テニス】
――全米オープン会場では休む暇なく次々とコート間を歩き回って、常に選手を見ていたのが印象的でした。 「どこで選手の“きっかけ”が落ちているかわかりません。今はその仕事にいる以上、できる限り選手のために行動するというのが自分に求められている仕事であると考えています。今大会の成果と課題をしっかり受け取って次へ進んでいきたいです」 ――世界基準を目指すために日本国内で練習すべきことや到達できるためにすべき条件などあれば教えてください。 「『今を勝つ』ということは大切ですが、テニスのスケールが小さくなってしまいます。勝たなければいけないということも理解できますが、グランドスラムに達していくということは、ひとつひとつのボールの質、身体の強さ、さらにこのレベルに来ると心の強さも求められます。それが小さい頃から足りているかどうかというのを常に確認しながらやっていく必要はあるのかと思います」 「心技体の土台があって、それぞれの駆け引き、個人が持っている特徴というものが生きてくるのではないかと私は見ています。日本国内だと勝たないといけない、ミスを減らしていかなければいけないと考えがちですが、果たしてその一球のレベルで将来このステージに行くには十分か?という疑問は立てられるものなのかなという感じはします」 ――欧米の選手は若いうちから繋がずに打ち込んでいるのでしょうか。 「繋がずに打ち込むというと大雑把なように思いますが、“基準のボールが何なのか?”ということが頭に入っている。ヨーロッパ、アメリカというのは、トップ選手を直接見やすい環境にあります。それを間近に感じる機会が多くあるということは、どこに基準があるか、という点で日本よりアドバンテージかもしれません。その分、日本は良い意味できめ細やかなコーチングが優れていて、技術的には非常に高いものを持っていると思います」 ――そこから世界へ抜け出していくことが必要なわけですね。 「普段のコーチがものすごい努力をされて今の選手がいると思いますので、どこのレベルに行くために今取り組んでいることをしているのか?と。ゴールは最終ゴールから導かれた今である、ということの徹底というところになるのではないかと思います。抜けていくというよりも、最初からテニスをしていく上で何を目指した上で教えているか、活動しているか、何を見て伝えているかだと思いますので、ある日突然何かが変わったということではなくて小さい頃から積み上げているものが何か、というところが最後に出るのかなと感じています」 ――世界基準を日本で生み出していくことは可能でしょうか。 「可能だと思います。それを導き出せる知識と情熱を持ったコーチの方々が日本国内にもたくさんいらっしゃいます。もっと選手が増えてテニス大国みたいになっていけばと思っています」 ――90年代の伊達公子さん、杉山愛さんの時代に全米オープンの本戦に日本人女子10人が入っていた時代もありますね。その杉山愛監督が日本代表監督に就任され雰囲気など大きな変化はありましたか。 「誰かが行けば、私にもできる!と良い連鎖が起きていきます。監督に就任されてから、グランドスラムにどれだけ選手を送りこんで行くかという点に関して、経験されてきた人の導きなので、現役選手もより明確な基準、アドバイス、必要なものが杉山監督の元で見やすく取り組みやすいと感じます。実際、結果が良くなってきていますから、その存在が大きいのではないでしょうか」 ――これから世界を目指しているジュニアやコーチに一言お願いします。 「日本のコーチは優れていて、ちゃんと世界を見てコーチングをされている方がたくさんいらっしゃいます。日本のジュニアには能力も目指すところもあるので、競争していってほしいと思います。ここに来ている我々、選手は、テニスファンの皆様があって成り立っています。日本女子はこの先何年かの間にいい時代が来ますので、ぜひ現地に選手のプレーを見に来ていただきたいですね」 ――貴重なお話をありがとうございました。
Tennis Classic 編集部