なぜ「仕事ができる人」は古典を読むのか…「平凡な私大」を「一流大学」に変えた"古典"の知られざる威力
古典を読むことには、どのような意味があるのか。作家のナムグン・ヨンフンさんは「古典には根源的な問いが書かれている。その問いによって、思考が深まり、脳を変化させるほどの威力を発揮する」という――。 【写真】ノーベル賞受賞者を多数輩出するシカゴ大学 ※本稿は、ナムグン・ヨンフン『みんなが読みたがる文章』(日経BP)の一部を再編集したものです。 ■「古典を読ませる教育」で名門となったシカゴ大学 なぜ古典を読まなければならないのでしょうか? 脳の発達と機能、ふたつに分けて説明します。 1.脳の発達のため アメリカのシカゴ大学は、1980年に石油財閥のジョン・D・ロックフェラーが設立した、1929年までは何の変哲もない学校でした。しかし、第5代総長にハッチンズが就任し、世界の偉大な古典100冊をすらすらと諳んじるまで学生を卒業させないという「シカゴプラン」を始めました。 すると驚く変化が見られました。これ以降から現在までに、80名を超えるノーベル賞受賞者を輩出したのです。 全校でビリだったウィンストン・チャーチル、小学校入学から3カ月で退学させられたトーマス・エジソン、学業不振児クラスに通っていたアイザック・ニュートンも、古典を読むことで新しく生まれ変わりました。 このように、古典は脳を変化させ、人生まで変えるのです。
■古典は現代人にインスピレーションを与える 2.脳の機能のため 1984年1月22日、ワシントン・レッドスキンズ〈現・ワシントン・コマンダース〉とロサンゼルス・レイダース〈現・ラスベガス・レイダース〉とのスーパーボウル競技中に、アップルがCMを流しました。新製品マッキントッシュの広告です。 たった一度のCMにもかかわらず、マッキントッシュの販売量は放送後の100日間で7万台に上りました。このCMは最近まで広告ランキングトップ100で38位を記録し、今でも人気があります。理由は、1984年を迎え、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』からインスピレーションを得てCMを作成したからです。『一九八四年』は、今でもハーバード大学で最も売れている古典で、「読んだフリ本」ランキングの1位です。 古典は拡張性を有し、現代人にインスピレーションと想像の種を与えてくれます。 脳の発達と機能、このふたつの特徴には、一貫する共通点があります。 まさしく、思考と拡張です。考えを拡張する過程で脳が活発に動きます。 脳が変化すると鈍才が英才になります。古典をもとに別の新しい物語が誕生するのです。 思考という源泉的な種を与えてくれるからです。 シカゴ大学の学生たちがノーベル賞を受賞する理由も、古典を通じた思考の拡張にあります。 ■「根源的な問い」が古典の力 古典にはなぜこのような力があるのでしょうか? コ・ミスク作家による古典の定義のひとつ目を見るとわかります。 「古典は、人生や世界への探求である」 わかりやすく言うと、古典は人間や世界について本質的に考えるようにさせるのです。 偉大な古典を選ぶとすれば『聖書』、『仏教聖典』、『論語』です。 これら3つの古典には、人間がいかにして生きるべきかについての壮絶な悩みが書かれています。答えを得るために、イエスは荒野をさまよい、シッダールタは菩提樹の下で修行し、孔子はつましい食事でひとり自問自答を続けました。 シュタイナー教育は、古典教育を通じて、子どもたちみずからが、次のような問いをするようにします。 「自分は何者なのか?」 「他者と自己の関係とは何なのか?」 「生きる意味とは何なのか?」 こうした内面の問いかけをしながら成長した子どもたちが、成熟しないはずがありません。 このように壮絶で本質的な苦悩が書かれているからこそ、文章を書く人は古典を読むべきなのです。