ホメてもらうため先生に級友の告げ口をし…ルポ学級崩壊「子どもたちが秘密警察化する」快楽中毒の現実
現在の学校では、十数年前とは異なる子どもの問題が多発している。 成育環境が変わり、子どもたちの性質も変わって、学校現場が対応できないという事態になっているのだ。その象徴の一つが、【前編:衝撃の教育ルポ「勝手に教室から出るのも特性?」学級崩壊の実態】で見た「静かな学級崩壊」と呼ばれる事象の増加だった。 【衝撃画像】「ダ、ダメッ!」セックス、薬物…毒親に苦しめられる少女たち「生々しい実態」写真 教室で起きる問題では、発達障害の特性のある子どもの言動がクローズアップされることが多いが、先生方によれば「ホメてホメて症候群」とも呼べる子どもたちの増加がそれに拍車をかけている傾向があるという。 教育関係者200人以上が子どもたちの抱える苦悩を語るノンフィクション『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(石井光太、新潮社)から、「ホメられ中毒」の子どもたちのリアルを見ていきたい。 ここ数年、子どもたちの間でのボディータッチが増加した、というのは多くの先生たちの率直な意見だ。 中学生の男の子同士が手をつないだり、肩を組んだりして登下校するだけでなく、教室で友達の太腿の上に座ったり、先生の体にしがみついてきたりするそうだ。LGBTQとは関係なく、こういう光景が日常的になりつつあるという。 先生は次のように話す。 「良いか悪いかという話ではなく、ここ数年の間に、子どもたちのボディータッチの頻度はかなり増えました。こういう子たちに特徴的なのが、常に誰かにホメてもらおうとすることです。 休み時間のたびに教員のところへやってきて、『こんなことできるんだよ』『わたし、こんなことしたの』とくり返し言ってきて、『すごいね』『偉いね』とホメてもらわなければ気が済まない。こういう子たちは、教員からホメてもらえないと、逆上することもあります。20年くらい前はこういう子はクラスで1、2名でしたが、今では5、6人は当たり前。多いクラスだと10人近くになることもあります」 ◆「偉いでしょ」 一般論を言えば、人は誰しも承認欲求を持っているものだ。彼らが評価に値することをしているのなら、大人はそれを認めて賞賛するべきだろう。だが、この類の子どもたちは、極端に甘えたがりな一方で、何もしないでホメてもらおうとする傾向があるらしい。 先生はつづける。 「ホメられることを目的に教員に近づいてくる子は、何か特別なことをしているわけではない。たとえばクラスメイトを貶めることでホメてもらおうとします。『先生、××君がこんなことをしています。僕が見つけたんです。偉いでしょ』と告げ口することで認めてもらおうとする。彼らは自分が賞賛されることを優先しているので、告げ口したことで相手がどうなろうと知ったことではないのです」 こういう子は一度ホメてもらうと、際限なくホメてもらおうとするという。 ある子がテスト中にクラスメイトがカンニングをしているのを見つけ、先生に告げ口したとする。先生にホメられると、その子はまるで秘密警察になったかのように、別の子たちのカンニングを次々に暴こうとし、ついには無実の子にまでカンニングの疑いをかける。 少し考えれば、そんなことをすれば、クラスメイトたちから煙たがられるとわかるだろう。だが、彼らはクラスの人間関係より、自分がホメてもらうことを優先するそうだ。 どうして彼らはそこまでしてホメられようとするのか。 本書の取材で集めた先生方の意見を分析すれば、大きく二つ理由がある。 一つが、家庭で十分な愛情を受けていない子が「愛情飢餓」になって、家族以外の人からホメてもらおうとすることだ。ただ、このケースでは、子どもの甘えがSOSとして先生に伝わり、家庭内の問題の発見につながることも少なくないので、必ずしも悪いことではないという。 問題は二つ目のほうだ。物心ついた時から、周りの大人から過剰にホメられすぎて、「ホメられ中毒」になっている子どもである。 都内の小学校の校長は言う。 「最近の育児本には、子どもをたくさんホメて自己肯定感を高めようというようなことがたくさん書かれています。親は子どもとどう接していいのかわからないので、そういう情報を鵜呑みにしてその通りにやろうとします。親が子どもを適度にホメるのならいいのですが、なかにはホメるというより、過剰におだてている人もいる。親が成功体験を用意し、その通りにやればどんなことでも絶賛する。ご飯を食べたら『すごいね!』と言い、髪を結わえたら『かわいい、お姫様みたい!』と言う。 こういう環境で育った子は、学校でも教員にそれを求めます。『先生、給食食べたよ。すごいでしょ』『先生、髪を結んだよ、お姫様みたいでしょ』と言ってくる。何でもないことであっても、ホメてもらわなければ気が済まなくなっているのです」 人はホメられると、脳内にドーパミンやセロトニンが駆け巡ることで快楽を得られるとされている。適度な体験なら良い刺激になるが、家庭でそれをむやみやたらに何十回もくり返されれば、その子は快楽中毒になって、家の外でも常にホメてもらわなければ済まなくなるということだ。 ◆1日に10回、20回と自慢 本書の取材では、こうしたクラスの状況を象徴する次のようなエピソードを示された。 小学校5年生のクラスでは、何でもないようなことを1日に10回、20回と自慢してくる子がいた。授業中に「鉛筆の握り方が正しいでしょ」「新しいノートなんだよ」と何度も言ってきたり、給食中に「お箸を上手につかえるんだよ」「牛乳も飲めるんだよ」と言ってきたりしてホメてもらおうとするのだ。 若い担任の先生が求められるままにホメていたところ、その子は調子に乗ってそれまで以上に自慢ばかりするようになり、学級経営に支障がでるようになった。そこで先生は校長と話し合い、今後は何でもかんでもホメることはせず、メリハリをつけることにした。 3学期から先生が態度を変えると、今まで甘えてきた子どもたちが予想外の態度を見せ始めた。授業や給食の最中に過呼吸を起こしたり、逆恨みして先生の悪口を言ったり、授業の邪魔をしたりするようになったのだ。ホメてもらえないことへの逆恨みだった。それによって、これまで以上に学級経営が難しくなったという。 子どもたちがホメられ中毒になるのはさまざまな要因があると思われる。ただ、先の先生が述べたように、その一因が家庭での親子関係にあるとしたら、なぜそこまで甘やかすのだろう。 別の学校の先生は言う。 「今の親には、ホメることが子どもに何かをやらせる手段になっています。『〇〇ちゃんは天才だね』と言って宿題をやらせ、『〇〇ちゃんはお掃除のプロだね』と言って後片付けをやらせる。ホメることが何かをやらせるための飴になっているのです。 こういう子どもはそれをやる意味を理解した上で自らやっているわけではありません。ホメてもらうためだけにやっている。だから、ホメられなければやろうとしないし、逆恨みをするのです」 ホメることが悪いわけではない。要は程度の問題だ。振り子の幅が大きすぎるのである。 学校でホメられ中毒の子どもたちが示す行動や、そこから起こるトラブルについては本書で述べたので詳しくは書かないが、親にせよ、先生にせよ、「こう育てればいい」というマニュアルを鵜呑みにするのではなく、その時々で子どもに何をすることが最良なのかを考え、柔軟に接することが大切だろう。特に子育てに関する情報が溢れ返っている今、そういう自覚が重要なのだと思う。 取材・文:石井光太 ’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。
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