夫を殺害した男性は、心神喪失で不起訴になった。裁判官と受け答えができていたのに…「どうして殺されたの?」真相を求める遺族の苦悩は続く
真理子さんは2021年6月、「医療観察法と被害者の会」を発足させた。活動では、現状を知ってもらうシンポジウムや、法務省などへ要望書を提出。審判での意見陳述や弁護士の傍聴、情報開示の拡大などを求めている。「加害者に精神疾患があっても、遺族が大切な人を失ったことに変わりはない。刑事責任能力がある場合と同様に被害者の権利を認めてほしい」 遺族の中には、会の存在を支えに前を向けた人もいる。妻を殺害された男性もその1人。「事件直後は怒りしかなかったが、誰かが動かないと社会は変わらないと思えた。まずは心神喪失者が抱える問題を理解する必要がある」 この男性は昨年、福祉専門学校で講演し、精神保健福祉士を志す学生に自らの経験を語った。 ▽更生を願って 大森さんの命を奪った男性は、今も入院したままだ。標準とされる1年半の入院期間をとうに過ぎた。真理子さんには治療の進捗を知るすべはなく、社会復帰の目安は知らされない。「施設への恨みは消えているのか、将来誰が男性をケアしていくのか…分からないことばかり。せめて加害者の状況を教えてほしい」。仮に退院しても所在地は明かされず、不安は尽きない。
それでも、真理子さんは男性の更生を願い続ける。「病気を治しながら、自分の罪と向き合い、命を奪うことの意味を理解してほしい。そうでなければ本当の意味での社会復帰とは言えない。夫はよく『人はたくさん失敗して、そこから成長するもの』と言っていた。だから、乗り越えてほしい」