「13万円で幸せに暮らす」を支援する不動産屋さん、「仕事4割は地域活動」280超のプロジェクト行う 大里綜合管理・千葉県大網白里市
「不動産屋が“家を借りたい人に貸す”のは当たり前」
入居に配慮が必要な人たちを受け入れることは決して簡単ではないはずです。それでも石井さんは「不動産屋が借りたい人に貸すのは当たり前」だと言います。 「先日は、うちでアパートを紹介して入居した人のゴミの出し方について、近隣に住む人から『ルール通りじゃない』と苦情がありました。そのように苦情を受けることは日常茶飯事です。多様な人が入居しているので、いろいろなことが起こるのは当然。生活への配慮が必要な人でなくても、家賃滞納などは起こります。何かあるたびになんとかするだけです」(石井さん) 大里綜合管理は、2017年の住宅セーフティネット法の改正とともに居住支援法人(※)を指定する制度が始まってすぐに申請手続きを行い、千葉県より指定されました。野老さんが生活困窮者自立支援法を制定する際の審議員の一人だったこともあり、申請をして千葉県からの指定を受けましたが、居住支援法人になる20年前から地域活動に取り組み、配慮が必要な人たちの住まいのサポートを行っています。 「管理をしている物件の大家さんにはいろいろな方がおり、配慮が必要な人の入居を敬遠する大家さんもいます。しかし、『もし何かあったときには、私たちに連絡をいただければ対応するから』と説明すれば貸してくれる方も多いのです。『どうすれば住まいを提供できるか?』と考え、自社の所有物件を有効活用したり、家賃保証会社と連携するなど、検討できる方法がたくさんあります」(石井さん) ※居住支援法人:住宅セーフティネット法に基づき、住宅の確保に配慮が必要な人が賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、居住支援を行う法人として各都道府県をはじめとする自治体が指定する団体等
「気づく訓練」でスタッフ育成。「地域活動=社員教育」
常に地域の「困った」とその解決に奔走する大里総合管理のスタッフですが、従事する業務の4割が地域活動と聞くと、事業の収支が成り立つのかどうかが気になります。しかし、石井さんは「不動産会社なので、きちんと家賃を払っていただければ確実に収益につながる」と言います。また、「収益を上げられなければ続かないので、地域活動においても収益性はシビア見ている」とも。 「コンサートをやるなら、1人2,000円で50人を集めます。そうすれば、収入は10万円です。そのほとんどは演奏してくださる方に払う費用になりますが、コンサートなどのイベントを開催するために必要な『集客』の業務はあらゆる事業につながる社員教育として、社員総出で徹底的に行います」(石井さん) 大里総合管理では社員教育として他に「気づく訓練」を行っています。これは20年以上前、草刈りの現場で人身事故を起こしたときに、業務の危険性に気づけなかった反省からできた訓練だと言います。 「気づく訓練として、毎日1時間、環境整備(会社の掃除)を行います。掃除をして、掃除をする前と後で何が違うのか、何か問題に気づいたか、その問題をどうしたかを問う訓練です」(笠置さん) 毎日1時間掃除をする、業務の4割は地域活動に充てるなど、独自の考え方や教育方法に「ついていけない」と会社を辞める人もいましたが、一方で「正しいことを誠実に一生懸命やる、困っている人のお役に立つ」という同社の思いに共感して集う人もまた大勢います。そのため、採用で困ることはないそうです。 さらに大里綜合管理ではエリア内外の多くの人へ向けて「13万円の小さな暮らし」というプロジェクトを推進しています。これは「所得が低くても、豊かに暮らす」をコンセプトに、家賃・食費・通信光熱費など含めて1カ月13万円で暮らすことを提唱するもの。1週間のうち4日間働いて、3日間を休日に。その休日を人助けに充てることで、地域で「お互いさま」の仕組みをつくります。 「昨今、日本全国で起きていることですが、お給料が上がっても物価が上がれば、実態として『豊か』とはいえません。右肩上がりの経済にこだわらず、世の中のお役に立ち、『ありがとう』の言葉や気持ちと一緒に賃金を貰えばいいのです。 所得が低くても豊かに暮らすためには、マイホームが安く買えたり、低い賃料で借りられたりすることが大事。空き家問題がクローズアップされている昨今、世の中には借り手のつかない住宅も出てきています。そのような空き家・空室を貸してもらうことで、3万円でも大家さんの収入になり、借りる人にとっては居心地のいい場所になるようにするにはどうしたらいいのかを考え、実践しています」(野老さん) 住まいの確保に配慮が必要な人が抱えている事情は人それぞれですが、「低所得でも豊かに暮らす」という考え方は、これからの暮らし方を考えるうえで一つの指針を示しているように感じます。大里総合管理では、「13万円の小さな暮らし」プロジェクトを含め、あらゆる取り組みであえて仕組み化を行わず、属人的にその時その時の「困った」に適した方法を考えて行動しています。スタッフ一人ひとりの「気づき」を活かし、豊かな暮らしを追求するその姿勢には、学べることが数多くあるのではないでしょうか。 ●取材協力 大里綜合管理株式会社
福富 大介(りんかく)
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