「過労死ラインは軽く超えています」長時間労働にハラスメント、持続可能な映画制作の現場をどうつくっていくか
近年SNSを中心に映画制作にまつわるセクハラやパワハラ被害を訴える声が上がっている。今後の改善を考えるためには、映画づくりは産業であり、さまざまな訴えは労働問題であるという視点が必要だ。商業映画の制作スタッフとして働いている女性や、制作現場の適正化に取り組む人たちに話を聞いた。(取材・文:長瀬千雅/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
常態化している長時間労働
「業界に入ったときから(労働環境が)ひどいなと思いながら、ずっとやってきているんです。それでも続けているのは、楽しいからですね。別に天職だと思っているわけではないし、もともとそんなに映画を見るほうでもありませんでした。性分に合う仕事だったというだけなんです」 佐藤一子さん(仮名、30代)は、大学生のときに知人の誘いで映画制作現場でアルバイトを始めた。以来10年以上、商業映画を中心に制作の仕事をしている。映画制作の現場は職能により演出部、撮影部、俳優部などに分かれるが、制作部には少なくとも2人、通常は3~10人のスタッフがいる。 「制作の仕事は、テレビのADさんをイメージしていただくと近いです。三つのランクに分かれていて、一番上は『制作担当』で、予算を含む全体の管理を行います。次が『制作主任』で、ロケ場所の選定や許可取りなど、ロケーションをコーディネートするのが主な仕事です。一番下の『制作進行』は、弁当や車両の手配をはじめ、現場で必要なあらゆるものを準備します」 佐藤さんは個人で仕事を請けている、いわゆるフリーランスだ。一つの作品に関わる期間は短いときで2カ月、長いときは1年。同業の知り合いや制作会社のプロデューサーから連絡がきて、仕事が発生する。「来年の夏あけておいてとか、再来年ちょっと大きい映画があるかもしれないからあけておいてとか、ほとんどが口頭やLINEでのやりとりです」。直前でキャンセルになることもあるし、半年と言われていたのが2カ月になることもある。約束が反故(ほご)になったら別の仕事を探す。 報酬は月にいくらとだいたい相場が決まっている。労働時間の取り決めはない。いったん現場に入ると休みはとれず、一日20時間近く働くこともざらだ。20代のころ試しに時給換算したら500円以下だった。今は報酬が上がったが、労働時間を加味すれば、東京都の最低賃金(時間額1041円)を100円ほど下回る。 「撮影が夜、終わりますよね。私たちは次の日の朝5時からもう動かないといけないんです。(勤務間)インターバルで11時間あけましょうなんてやっていたら撮影が始まらないです。世に言う過労死ラインは軽く超えています。鋼の体を持っている人だけが残っていますね。続かなくてやめてしまう人も多いし、若い人が入ってこない。入ってきても撮影の序盤でいなくなってしまうこともあります。夜が明けたらいなかった、とか。上(の人)がいなくなることもあります」