「過労死ラインは軽く超えています」長時間労働にハラスメント、持続可能な映画制作の現場をどうつくっていくか
ロケ地滞在中に起きたトラブル
佐藤さんはこの仕事をやめようと思ったことがある。26歳のとき、大作と呼ばれる規模の邦画に参加した。気鋭の監督がメガホンをとる意欲的な企画で、佐藤さんもやりがいを持って現場にのぞんでいた。ロケ地での暮らしが半年に及ぶころ、他部署の年長の男性スタッフから強制わいせつの被害にあった。 「よくないことですが、私たちはいわゆるセクハラに慣れてしまっているところがあるんです。でもこのときは看過できるレベルではなかったので、上司に相談しました。大変話しづらいのですが……と。実際に対処してくれたのはその上のラインプロデューサーでした。(性加害を)やっていた本人を含む関係者に聞き取りをしてくれて、その人(加害者)は現場からいなくなりました。被害にあっていたのは私だけではありませんでした」 その1週間後、自らが運転する車で単独事故を起こした。夜中の1時ごろ、宿舎へ帰る途中の悪路でスリップして崖から転落。べこべこになった車からなんとか這い出してケータイの電波を探した。 「奇跡的に少しの外傷と軽いむち打ちで済みましたが、死んでいてもおかしくない事故でした。それがクランクアップの1週間前で、さすがにもう現場には来るなと言われて、1週間休養しました」 ロケ地滞在期間中に交通事故を起こしたのは、佐藤さんだけではなかった。数台の車両が廃車になり、救急出動を依頼したケースもあった。事故処理も制作部の仕事だった。佐藤さんは事故が多発した原因を「初期に起きた事故もあるので、必ずしも長時間労働のせいとは言い切れない。若いスタッフが多く、私も含めて本人たちが未熟だったのがいちばん大きかったと思います」と振り返る。 佐藤さんは当時の心境をこう話す。 「せっかくここまで半年間、誰よりも長く現場に携わってきたのに、こういうかたちで終わってしまうのかと思うと、悔しかったですね。やっぱり愛着があったので。それと性被害が重なって、もうこんな業界にいても仕方がないと思ったんです」