率直に問う 京都は歴史ある「古都」か? もはや単なる「テーマパーク」か? 悪マナー横行の“観光公害”で考える
SNS映え至上の観光地
企業コンサルタントの山田元一氏の「テーマパーク化する観光地としての金沢」では、テーマパーク化という現象を、こう説明している。 「テーマパークとは、具体的にはディズニーランドのような所を指すのですが、その本質的な特徴はアトラクションの文脈や背景が捨象されて並列されていることです。例えば、白雪姫のお城の横に西部劇のジェットコースターがあって、カリブの海賊のアトラクションがある、という具合いで、個々の背景や文脈はカットされ、ただ表象としての楽しさを享受できるのがテーマパークです。いま金沢で人気がある観光スポットは、「近江町市場」「金沢21世紀美術館」「ひがし茶屋街」といったところで、それぞれ背景や文脈が異なりますが、若者観光客にとって、そんなことはどうでもよく楽しさがあればそれでオッケーなのでしょう。つまり、そもそも、とか、もともとは、とか、そのような文物を支えている背景や文脈を追い求めていく作業は不要で、楽しくておいしそうなところが手っ取り早くかいつまみできる街、金沢はテーマパークのようだ、というわけです」 この定義に基づけば、多くの観光地がテーマパーク化しているといえるだろう。旅行者は、その土地の歴史や文化的背景を深く理解を理解することよりも、表面的な「楽しさ」や「映え」を求めて訪れるようになっているのだ。 土地の表面だけをかすめ取るような旅行スタイルは昔からあった。しかし、それが大きな問題として認識されるようになったのは最近のことであり、その背景にはSNS、特にインスタグラムの台頭が深く関係している。「インスタ映え」を重視するこのスタイルは、観光地の本質的な価値よりも、表面的な楽しみや美しさを重視する風潮を加速させている。 関西大学の鈴木謙介氏は「ソーシャルメディアとオーセンティシティの構築―「インスタ映え」の観光社会学的考察」(『観光学評論』7巻1号)で、「インスタ映え」と観光の関係を分析し、こう記している。 「(1)インスタ映えは、低関与な消費者が自らの需要を満たすために、シンボリック属性に関する情報探索を行う際に適合的である」 「(2)インスタ映えする観光地のオーセンティシティは、ソーシャルメディア上のコミュニケーションが生み出すコードと、観光地のマテリアリティの相互作用が生み出している」 解説すると、「1」の意味するところは、多くの観光客は、観光地の歴史や文化的背景を深く理解しようとするよりも、SNSに投稿したときに見栄えのする、視覚的に魅力的なスポットを探す傾向があるということだ。 「2」は、観光地の「本物らしさ(オーセンティシティ)」や価値は、主にその場所の歴史や文化によって決まるのではなく、SNS上のコミュニケーション(いいね!やシェア)によって生み出される評価(コード)と、実際の観光地の物理的特性(マテリアリティ)との相互影響によって決まるいうことだ。 観光客が表面的な魅力や写真映えを求めるように、観光地もまたインスタ映えするスポットを作ろうとする。その結果、観光地は本来の文脈や歴史的背景から切り離され、見た目の派手さや面白さだけで勝負するようになる。 これはテーマパークの特徴とまったく同じだ。つまり、インスタ映えを追求する観光客と、それに応えようとする観光地との相互作用が、観光地を次々とテーマパーク化する原動力となっているのである。