魏・呉・蜀の諸葛氏を絶滅させた「司馬一族」の強さの秘密
■ 守るときでさえ、相手の弱みをじっくり観察して決める 人は通常、「自分の強み」か「相手の強み」を元にして決断をしてしまうものです。自分の強みに注目する者は、相手の動きへの観察や客観性が欠けてしまいます。この客観性の欠如は、呉で暗殺の悲劇を迎えた傲慢な天才、諸葛恪にまさに当てはまります。 一方で相手の強みに着目すると、保守的な選択肢ばかりを選ぶことになります。これは蜀の諸葛亮や、呉の諸葛瑾といった優秀な人物が「負けない戦い」を選んでいる姿に重なります。 相手の強みが目に入ると、過剰に堅実な策を選ばざるを得ないようになるのです。 相手の強みとは、相手がこちらに見せたい脅威であり、相手からすれば、こちらの動きを制限するための「見せつけている武器」でもあります。 普通の人は、そのような「相手が見せつける武器」の前に、思考が硬直化してしまうものです。相手の強みに着目したり、相手の強みから思考を切り離すことができない者は、相手が見せびらかしている強みで、思考の自由を失ってしまうのです。 ところが、司馬懿のように「相手の弱みに着目する」ことで、攻撃や防御の決断をする者は違います。また、こちらの行動次第で、相手の強みではなく、「相手が見せたくなかった弱み」をさらけ出すようにさせることも、司馬懿の得意な戦略思考だといえます。 ■ 英雄曹操の弱みを知って身を守った司馬懿 司馬懿は、曹操に疑われたとき、長男の曹丕に取り入って親交を結びました。冷徹な武将である曹操に、唯一あった弱点に司馬懿は着目したのです。さすがの曹操も、後継者として考えている曹丕に「任せること」を排除できなかったのです。 「曹操は『司馬懿は人臣に非ざるなり、必ず汝が家の事に預からん』、つまり彼奴に我が家を乗っ取られるぞ、と注意した。しかし、当時太子だった曹丕は司馬懿と仲が良く、事あるごとに彼をかばった。司馬懿もまたひたすら職務に精励したため、やがて曹操も警戒心を解いた」(書籍『正史三國志群雄銘銘傳』より) もし、司馬懿が曹丕に仕えて親しくしていなければ、司馬懿は曹操に殺されていたでしょう。曹操の唯一の弱点である曹丕の保護下に、司馬懿はまんまと逃げこむことに成功したのです。 敵の弱みに着目する一方で、敵から見た自軍の弱みをあらかじめ補強しておく。こちらを甘く見ていた敵は、予想した弱点を露呈しないことに驚くでしょう。強みを避けて弱みに殺到する司馬懿の軍勢に、敵はなすすべもなく敗北するのです。 徹底して、相手の弱みに着目する。どのような行動をすれば、相手の弱点を露呈できるのかに思考の焦点を合わせる。このような「相手の弱点をひたすら突く」ということは、常人や優秀なだけの人にはなかなかできないことです。 相手の弱みばかりを考え、相手の弱みを徹底して突く。これは実践家、常に戦場に心がある人の思考法です。猜疑心の塊だった司馬懿は。これができたからこそ、その家族とともに三国志の英雄たちの舞台をすべて飲み込む最終勝利を収めたのでしょう。
鈴木 博毅